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試合レポート

新オプションで首位の相手に挑むも、初の複数失点。これを収穫へと変えられるか

 

度重なるミスからのリーグ戦初の複数失点で、前節に続く黒星。だが、首位の相手との格差も見せつけられながら、チームは新たなチャレンジでスタイルのブラッシュアップに挑んだ。J1残留を目標に、まだまだ果敢に戦わなくてはならない。

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攻撃の新オプションにチャレンジ

 
特徴ある戦術を相手に研究・対策され、これまでのようには戦えなくなってきたここ数試合。チームは、昨季までもそうしてきたように、ここからもう一段階、相手を上回れるようになるため、新たなオプションにチャレンジした。
 
しっかりとブロックを構える堅守のFC東京を攻略するためには、さらなる細やかな崩しのバリエーションが必要となる。そこで今節のチームは、いままでは見たことのない変則的なポジショニングで、それに挑んだ。
 
前半立ち上がりに顕著に見られた形は、右WBの星雄次がシャドーのように中へと絞りつつ高い位置を取り、右CBの岩田智輝がWBの位置まで上がって、右シャドーの小塚和季がトップ下のような役割を担うスライド。最終ラインは鈴木義宜と庄司朋乃也の2バック状態に、状況に応じてボランチが下がっていた。前線に人数をかけて細やかに崩そうとするぶん、リスクマネジメントの重要性も高まる。特にFC東京はカウンターに長けたチームだ。だが、韋駄天の松本怜の守備への戻りをはじめ、総じて早い帰陣で対応していた。
 
チャンスは4分に訪れた。オナイウ阿道が左サイドで激しくプレッシャーをかけ渡辺剛からボールを奪うと、ゴール前でノーマークになっていた星へとパス。だが、星の左足シュートはFC東京の守護神・林彰洋にセーブされた。
 
最初の失点は30分。FC東京の右SH久保建英の突破は松本怜と島川俊郎が阻んだが、久保が右SBの室屋成に落とすと室屋がクロス。マークに付ききれず、橋本拳人にヘディングで先制弾を許した。さらに39分にはパスを受けようとした岩田めがけて大分U-18の大先輩・東慶悟がスライディングタックル。岩田がヒールで落としたパスは小塚に届かず久保に拾われ、小塚もそれを奪い返しきれずに久保はドリブルでエリア内まで進入するとシュート。鈴木義宜と長谷川雄志が対応していたが、食い止められずにボールは高木駿の指先を抜けて2失点目を喫した。
 

すべてにおいて上回られていた

 
とにかく相手のほうが、技術や判断のスピード、クオリティー、インテンシティー、すべてにおいて上回っている前半だった。ディエゴ・オリヴェイラと永井謙佑の2トップによるカウンターを警戒し、素早い帰陣である程度それは牽制できたのだが、速攻から遅攻へと切り替えてからのディエゴ・オリヴェイラの組み立て参加をはじめ、両SHやボランチによる流動的で分厚い攻撃も、迫力満点で圧倒されるばかりだった。
 
寄せて入れ替わられるのも警戒してか、その守備対応はややアグレッシブさを欠いた。島川が果敢にぶつかっていったが、1対1で止めようとすればファウルがちになってしまう。スルーパスやクロスが入らないため、立ち上がりに絡んだのを除いて藤本憲明がボールに絡む場面は少なかった。
 
後半からは立ち位置を比較的固定させたが、それでも埒があかないと見ると、片野坂知宏監督は割り切ってプラン変更に踏み切った。58分、星と島川を後藤優介とティティパンに二枚替え。右SHに後藤、左SHにオナイウ、トップ下に小塚を並べた4-2-3-1へとシステムを変えた。
 
すると直後の59分、鈴木のフィードをオナイウが頭で落とし、それを拾った小塚が再びオナイウへ。エリア内左で受けたオナイウが体勢を整えてシュートすると、ボールはゴール右隅に転がり込んだ。
 
1点差に詰め寄り、その後は苦しいながらもサイドのトライアングルで崩す場面も見せたりしつつ、そのままのスコアで迎えたアディショナルタイム。5分の表示に、もしかして同点に追いつけるワンチャンスがあるのでは、と期待が高まったが、やはりこの日は大分の日ではなかった。
 
小塚のスローインをハーフウェイライン付近で受けたティティパンが、久保に寄せられて横パスをミスする。これを拾った久保は、すでに前に出ていた高木をドリブルでかわして無人のゴールへとパス。絶対に失点してはならないタイミングでのミスからの失点で、流れは断ち切れてしまった。
 

負けたとしても、一試合たりとも無駄にしないために

 
今季リーグ戦では初めての複数失点、さらにリーグ戦初連敗、アウェイ初黒星と、初物尽くしで舐めた苦杯。3失点のいずれも、ひとつのミスや一瞬の隙からの展開で、この試合ほどプレー精度不足や判断ミスの重みを痛感したことはなかった。それほどFC東京のクオリティーが高く、相手のミスを逃さないしたたかさを持っているチームだと言える。普段はしないようなミスをしたのも、実は普段は見逃されていたミスが見逃されず浮き彫りになったのも、FC東京の実力によるものだった。
 
相手の力量の高さはスカウティングの時点で十分にわかっていたことなのだが、片野坂監督以下コーチ陣は、その力量差を必要以上にリスペクトすることなく、アグレッシブに戦う選択を敢行すると、「今日は勝敗とか点差とかに目を向けず、試合に集中していいゲームをしよう」と話して選手を送り出したという。その意図を、指揮官は試合後にこう明かした。
 
「前節、川崎Fさんに負けたし、今日も東京さんに負けたのだが、負けに関しても負け方がある。やはり内容が充実した中で負けてしまうことは、もうどうしようもできない。川崎Fさんにしてもその前の清水さんにしても、つねに相手はJ1のトップレベルだと思うので、そういう相手に対して、自分たちの狙いだとかゲーム内容的にも互角とかそれくらい上回ったりとかということが大事。その中で東京さんの堅い守備に対してチャンスをどれだけ作ることができたか。そこにクローズアップしてやらなくては、選手が思い切ってプレーできないかなと考え、そういう意味でそう言って選手を送り出した」
 
失点しないようにガチガチに引いて守っても、これだけの力量差があればこじ開けられてしまう。それで負けても何も収穫は残らない。それよりも自分たちの標榜するスタイルを追求し、相手との力量差を肌で感じることで、いまここからやらなくてはならない課題が見えてくるはず。「足りないことがわかるのも収穫」と、今季何度も片野坂監督が言っているとおりだ。
 
だが、スタイルのブラッシュアップには努力が必要だ。高木は試合後にこう言った。
 
「今日の新しいオプションでは、より精度や判断のクオリティー、相手を見ることが大事になってくる。今後も構えてくる相手がいるだろうから、自分たちがさらに成長するためには、そういう部分が必要」
 
第14節を終えて、リーグは中断期間に入る。ティティパンはタイ代表からすぐに戻ってくるが、コパ・アメリカ代表チームに招集された岩田と小島亨介は、しばらく大分を離れることになる。2週間の中断期間で、このチームがどこまで成長できるかは、選手個々の意識に懸かっている。