大観衆の中での九州ダービー。指揮官の決断がハマってクロスから2得点
今季唯一の九州ダービー。昭和電工ドーム大分には2万4000人を超える観客が詰めかけた。今節も守備を固められた中、チームは粘り強くそれをこじ開け、流れを引き寄せた。
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敵将、突然の「体調不良」で帯同せず
メンバー発表時に激震が走った。鳥栖の指揮を執るのがルイス・カレーラス監督ではなく金明輝コーチとなっている。理由はカレーラス監督の体調不良ということだったが、他のスペイン人スタッフも帯同しておらず、結局、試合の翌朝にクラブから正式に指揮官の解任が発表された。ここまで1勝1分7敗で1得点という戦績を見れば時間の問題かと言われてはいたが、「体調不良」による今節の前触れなき指揮官交代は、大分にとってのみならず、鳥栖の番記者たちにとっても不測の事態だった。
スターティングメンバーはGKが高丘陽平に代わり、フェルナンド・トーレスと金崎夢生が復帰。3バックなのか4バックなのか、フォーメーションの読めない構成だ。金明輝コーチは昨季、J1残留を懸けたラスト5試合で指揮を執り、4バックシステムで3勝2分と結果を出している。「どちらにも対応できるように」と準備して試合に入ってみると、システムはこれまでカレーラス監督がやっていたのと同様に相手とミラーにする狙いの3-4-2-1だった。
最下位脱出を目論む鳥栖は、前半は失点しないようにと、自陣では大分の攻撃陣に枚数を合わせて守備を固める。立ち上がりからしばらくは大分もそれを攻めあぐねた。だが、カウンターを狙いたい鳥栖は前線の3枚を攻め残らせている。特にトーレスとイサック・クエンカの2人は守備が得意ではない。金崎が一人でボールを追っても単発に終わり、後ろでボールを回すスタイルの大分に対しては、高い位置で奪うことはおろかパスコースの限定さえも厳しい状況だった。
そのしわ寄せが、最終ラインと両WBとボランチの7枚での守備にのしかかる。特にボランチの2人は大分のビルドアップに対し、ハードワークを強いられた。疲労の蓄積につれてスライドが遅れるようになり、大分がサイドで数的優位を作る場面が増えてくる。
指揮官が懸けた左サイドの新オプション
このサイド攻撃に大きく加担したのが、この試合でJ1初先発を果たした生え抜きルーキーの高畑奎汰だった。3CBの左からインナーラップでスペースを突き、左WBの高山薫と連係して数的優位を作ると左シャドーの小塚和季を加えて相手守備網を崩しにかかった。
今節の高畑の起用に関して、片野坂知宏監督は「覚悟をもってチャレンジした」と試合後に明かした。それは16年の就任以来、信頼して最終ラインを託してきた福森直也を先発から外すという選択だ。特に今季の福森はプレーの安定性を増し、J1へとカテゴリーを上げながら9試合6失点の堅守に貢献している。鈴木義宜とのコンビネーションもよく、また右CBの岩田智輝が攻め上がった際のリスク管理も、福森がいればまずは安心だ。そこを高畑に代えれば、守備のバランスを崩すことにもなりかねない。183cmの福森に比べ、高畑は175cmと高さの面でも不安がある。右CBの岩田も高さがないため、鳥栖の前線の顔ぶれと戦い方によっては、かなり不利なことになる。
それでも敢えて今節、指揮官は高畑の選択に踏み切った。第8節のG大阪戦、第9節のC大阪戦と、相手に守備の枚数を合わされて攻めあぐねる試合が続き、大分対策として引いて守ることが常套化しそうになっていたことも影響したかもしれない。相手にブロックを構えられたときには低い位置から前線まで一発でクサビを通す福森よりも、高い位置まで攻め上がる高畑の攻撃参加方法のほうが有効になる。そう踏まえての、指揮官のチャレンジだった。
その期待に応えて高畑は右CBの岩田とともに高い位置を取り、味方と連係して相手を崩すと何度もクロスを供給した。前半は精度を欠いてフィニッシュに至らなかったが、後半早々の48分、ついにそれが結実する。小塚のパスを受けた高畑のクロスにニアで藤本憲明が潰れ、その向こうに詰めていたオナイウ阿道が落ち着いて押し込み先制した。
守護神・高木のビッグセーブで無失点
鳥栖は50分、トーレスを下げてシャドーに安庸佑を入れ、金崎を頂点に上げる。だが、60分に大分に追加点。今度は右サイドから岩田がクロスを入れると、鳥栖CBに当たって軌道を変えたボールはファーに入っていた小塚のところへ。相手DFの死角に入っていた小塚はこれをヘディングシュートでゴール右隅に沈めた。小塚の移籍後初得点は、ヘディングを滅多にしない小塚にとってのプロ初の頭でのゴールとなった。
63分には左に流れていた安庸佑からのクロスにゴール前で金崎が頭で合わせ、鳥栖にとってこの試合最大の決定機を築く。懸念したとおりマークについていた高畑の頭上から叩き込まれた形だったが、ここで高木駿のビッグセーブが飛び出し、ゴールを割らせない。高畑の起用で攻撃に軸足を置いたぶんは島川俊郎や鈴木がカバーし、最後は高木が補った形だ。
鳥栖は直後に高橋祐治を下げて豊田陽平を入れ、システムを4-4-2に変更する。豊田と金崎の2トップの存在感は脅威だったが、なかなか2人のところにまでボールが運べない。鳥栖は試合の立ち上がりから攻撃に関する共通認識不足で、ボールを奪ってからも攻撃のスイッチを入れることができなかったが、2点ビハインドの状況でこの2トップを並べても、そこに長いボールを入れるというディシプリンは存在していないようだった。
それでも69分には疲労した原川力を高橋義希に代え、ようやく長いボールを増やして大分を押し込みにかかる。大分は65分に高山を三竿雄斗に代えて左サイドの鮮度を保ち、さらに72分には小塚を下げてティティパンを入れて3ボランチで鳥栖の追撃に備える。前がかりになる相手と入れ替わってティティパンが好機を作り攻撃の時間を増やすと、それを強化するように片野坂監督は藤本を三平和司に代え、ボールを保持することで鳥栖の攻撃時間を削った。高木の安定したクロス対応もあり、試合は2-0のまま終了。3試合ぶりの勝利を挙げ、5戦無敗で3位となった。
藤本へのマークが厳しくなってきたいま、オナイウがシャドーでフィット感を高め、得点していることは大きい。同様に、松本怜が対策されはじめたところで左サイドが高い位置を取るオプションが計算できるようになったのも、チームにとって心強い要素だ。
次はミッドウィークのルヴァンカップ神戸戦。ルヴァンカップでのプレーでチャンスをつかんだ高畑に続き、また新たなオプションが増えることに期待したい。