殺伐とした潰し合い。流れをものにした相手に勝者の座を明け渡す
互いの長所の潰し合いが我慢比べとなりそうな中、要所の質で相手に上回られ先制点を許すと、そこからは相手の思うツボだった。明治安田J1第5節H広島戦は、悔しい敗戦。このチームには、高めるべき要素がまだまだある。
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互いの長所を潰し合ったゲーム
試合後、高山薫の口からはしばらく「悔しいッスね」という言葉しか出てこなかった。サイドの攻防がカギを握った、広島とのミラーゲーム。相手の最大のストロングポイント、右WBからの突破を担う元スウェーデン代表MFエミル・サロモンソンとのマッチアップで、ほとんどの時間帯で相手に仕事をさせなかった。「でも、こっちも何もしてないんで、相手を抑えたことはもうどうでもいい」と無念さばかりが先に立つ。
落ち着きを取り戻して「どっちもボールをさわれなかったゲーム」と振り返った。片野坂知宏監督もこう総括する。
「前がかりになりすぎても逆にやられてしまうし、受けすぎても広島さんの良さが出てしまうというせめぎ合い。シュート数は両チームとも少なかったが、戦う上で非常に難しい相手だったし、難しいゲームだった」
往々にしてミラーゲームは膠着しがちだが、堅守の広島との一戦だけに、その殺伐さはなおさらだった。シュート数は90分通して大分が5本、広島が4本。
それでも前半は、タイミングよく相手の間に顔を出してシンプルにボールを運ぶ大分のほうが、こなれている印象ではあった。細やかに崩したり長いボールで裏を狙ったりといつものスタイルを表現して攻めたが、広島もゴール前では堅実に跳ね返してくる。広島もシャドーやサイドにボールを入れて攻めようとするが、大分の組織的守備に潰されてフィニッシュにまでは至らない。
広島のプレス修正に対応できず
攻防は次第に我慢比べの様相を呈し、ひとつのミスが分岐点になりそうな雰囲気が漂いはじめる中、前半終盤にそれぞれが決定機を築く。38分は大分。高い位置で粘った岩田智輝からのパスを受けた松本怜のクロスをゴール正面で藤本憲明が胸トラップするが、相手に厳しく寄せられ体勢を崩して打ったシュートは枠の上へ。40分には広島。パスを受けた岩田の足元を背後から狙った柏好文がボールを奪うと、こぼれ球を拾ったドウグラス・ヴィエイラが持ち込み、最後は柏がシュート。枠ぎりぎりを狙った弾道は、わずかに右に逸れた。45分には大分が右サイド深い位置からのFK。小塚和季のキックがゴール前でバウンドしたところへオナイウ阿道が飛び込んだが、これも枠を大きく外れた。
ポゼッション率を高めたい広島の城福浩監督は、大分にボールを動かさせないよう、ハーフタイムにプレスの掛け方を修正する。特に大分のボールの出どころである前田凌佑に激しくプレスをかけ、自由を奪った。そんな広島の裏をかくように、片野坂監督もハーフタイムにはもっと相手の背後でボールを受けるよう指示を出したのだが、そのぶつかり合いで広島のほうが上回った。
後半立ち上がり、広島のプレスに遭った大分はビルドアップのミスを連発する。それを高い位置で拾った広島がクロスから立て続けにチャンスを演出した。54分、柏のクロスはファーに流れたが、サロモンソンが折り返すと走り込んできた野上結貴がヘディングシュート。これは高木駿が至近距離正面でキャッチして事なきを得るが、57分にはルーズボールを収めた川辺駿の縦パスを柏が落とし、柴崎晃誠がアーリークロス。ドウグラス・ヴィエイラが頭で合わせ、広島が待望の先制点を奪った。
後半はほぼブロック崩し
リードを奪い、広島の守備はますます堅くなる。5-4のブロックを構える広島を押し込むが、大分の攻撃は相手の守備網にひっかかるばかり。65分にはティティパンをベンチに下げ、小塚をボランチに落として後藤優介をシャドーに入れ攻撃色を強める。70分には福森直也のパスをひっかけた川辺が勢いよくドリブルで持ち上がるが、ドウグラス・ヴィエイラへのラストパスがわずかにずれて、大分は命拾い。
広島は71分に野津田岳人を渡大生に交代。ストライカーのイメージが強い渡だが、チーム戦術のため守備の強度維持に心血をそそぐ。大分は1分後に福森を三竿雄斗にチェンジ。三竿はグロインペイン症候群による長期リハビリを終えての復帰戦。トレーニングマッチではまだ30分しかプレーしていなかったが、広島のブロック攻略を期待され、この時間帯に投入された。75分には高山がカットインして藤本にパス。だがこれもクリアされてしまう。77分には松本怜がクロス。オナイウ阿道に合わせるが、大迫敬介にキャッチされた。
78分、広島は柴崎を東俊希。79分には大分が高山を小林成豪に代えた。小林はそのまま左WBに入る。90分、岩田が右サイドでボールを持ち、カットインでブロックの中に進入。ミドルシュートを放ったが、枠の上にそれた。
アディショナルタイムは4分。だが、広島は全員が自陣で守備を固める状態で、パスコースは見事に消され、出しどころがない。ボールを動かして揺さぶるにも中途半端な印象に終始し、浮き球のパスをエリア内で受けた小林のシュートが枠を外れたところでタイムアップ。悩みながらの必死の追撃も、ついに広島の牙城は崩れなかった。
次節は広島とはタイプこそ違うがやはり3-4-2-1の札幌戦。その次も仙台戦で、ミラーゲームが続く。ボールの動かし方をもう一度整理し、苦手なイメージを払拭したいところだ。三竿の移籍後初出場、三平和司の今季初ベンチ入りと明るい兆しもあった。個々のレベルアップを通じたチームの力量向上に期待したい。