TORITENトリテン

試合レポート

アジア王者を下した昇格組。貫いてきたスタイルの手応えを確かめた!

 

カシマスタジアムに詰めかけた約800人のトリサポの声援を背に、チームは2019年J1開幕を迎えた。伝統を誇る強豪・鹿島を2-1で下し、大方の予想を覆すスタート。各所に地力の差を見せつけられながら、それでも勝利を掴めたのは、ここまで辛抱強く貫きブラッシュアップしてきたスタイルが着実に浸透し成熟しつつある証だ。

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記録が花を添える藤本の開幕弾で先制

 
J1での出場経験を持つ選手は少なく、このステージに立つのは初めてという者も多い。片野坂知宏監督は「アウェイで鹿島と戦う、J1のこの雰囲気を楽しもう」と言葉をかけて選手たちを送り出した。選手たちは「相手がどれだけ強豪でも自分たちのサッカーを貫こう」と誓いあってピッチに向かった。
 
互いに慎重だった立ち上がり。様子をうかがいながら狙いの形を出そうとボールをつなぐが、相手も要所を締め、シャドーに入れさせてくれない。パスミスを途中で引っ掛けられたり、失い方が悪かったりしてカウンターでピンチになる場面も立て続けにあったが、体を張って粘り強く対応し、相手の精度不足にも助けられて序盤が過ぎる。
 
次第に相手が前からハメに来たあたりから、相手の背後を突く狙いの長いボールが増えた。11分には高木駿のロングキックに応え、藤本憲明がチョン・スンヒョンと入れ替わって抜け出す。だが1対1の状況に持ち込んで放ったシュートは、守護神クォン・スンテの手に当たって弾かれた。
 
鹿島も重量感のある攻撃を仕掛けてくるが、守備でも数的優位を保ちながら、最後は高木が落ち着いてキャッチするなどしてしのぎ続ける。
 
19分、セカンドボールを拾った前田凌佑からの縦パスを相手の間に立った伊藤涼太郎と小塚和季がテンポよくつなぎ、藤本がスペースへと持ち出して左足シュート。ゴール正面から放たれた弾道はスンテの頭上を越えて鮮やかにネットを揺らした。チームの今季公式戦初ゴールで先制。藤本にとっては3年連続の開幕ゴール、そしてJFL、J3、J2、J1全カテゴリーでの開幕ゴールという華々しい記録達成の瞬間でもあった。
 

粘り強い対応と采配で引き寄せた勝利

 
点が入って硬さがほぐれたのか、その後はペースを握って攻める。レオシルバが奪いにくるのを引き込むことで生まれたスペースを、シャドーが上手く使えるようになった。鹿島もそのままで終わってくれるわけはなく、迫力ある追撃を仕掛けてくるが、度重なるセットプレーもしのぎ切り、リードして前半を折り返す。
 
だが後半は、立ち上がりから激しく圧をかけてきた鹿島に押し込まれた。48分、永木亮太のFKを犬飼智也がゴール前に走り込んで頭で落とし、最後は伊藤翔が押し込んで同点とされる。
 
1-1となったことで鹿島が守備の圧を少し緩め、ここからは互いにチャンスを築く展開に。鹿島は安部裕葵の仕掛けからゴールに迫り、大分は藤本のストロングポイントを生かして攻める。59分には小塚のパスから伊藤涼太郎がシュートを放つが、相手守備陣のブロックに阻まれた。
 
指揮官は62分、伊藤涼太郎を下げてオナイウ阿道を入れ、前田をアンカーに、小塚を左インサイドハーフに配置してシステムを3-5-2に変更。中盤で鹿島の攻撃に対応しながら2トップの強度に期待した形だ。するとその狙いが当たり、69分にゴールが生まれる。上手く体を使ってスンヒョンをかわしながらオナイウが高木のキックを収め、裏に抜け出して藤本へとパス。ペナルティーエリアに走り込んだ藤本が落ち着いてダイレクトで沈め、再びリードを奪った。
 
70分、鹿島は安部を下げて土居聖真を投入。72分には大分が疲労したティティパンに代えて丸谷。前田を一列上げて丸谷をアンカーに据えることで守備の強度と安定感を増した。鹿島はさらに76分、遠藤康に代えて山口一真を入れ、土居と左右を入れ替える。互いにチャンスを作る中、高山薫のカウンターから藤本がシュートシーンを迎えリードを広げるチャンスもあったのだが、決め切れず。2-1のまま、89分に永木を下げレアンドロを入れた鹿島の追撃に押し込まれるが、高木が完璧なクロス対応を見せつつしっかりと時間も使って、5分のアディショナルタイムを乗り切った。
 

片野坂サッカーは確実に根付いている

 
鹿島に勝利したのは2006年10月29日のJ1第29節以来。実に13年ぶりの白星だ。藤本の華々しい記録や合流して1ヶ月に満たないティティパンの期待以上の活躍、試合終了後も無事だった指揮官の声、そして4年連続の開幕勝利、全カテゴリーで開幕戦勝利達成など、喜ばしい要素は数多くあった。
 
が、何よりも喜ぶべきは、片野坂体制下でコツコツと築いてきたチームのスタイルがしっかりと根を下ろし、それを貫くことでJ1でも結果を出せたことだ。試合立ち上がりの様子のうかがいあいから、ボールを保持しながら相手の出方を確かめ、狙いを定めて立ち位置を取ることで相手を動かしたり、長いボールを入れる選択肢を織り交ぜて相手を動きづらくさせたりと、相手との駆け引きの中で判断して徐々に流れを引き寄せていった前半の内容は、果敢にして非常に艶のあるサッカーだったと思う。
 
しかもそのプレーの選択が、ある程度自然な意思統一の下で出来ていたというところに、揺るぎなきベースの確立が感じられる。
 
開幕戦で鹿島に勝利したことで、今後は相手からのスカウティングも進められ、さらなる厳しい試合が続くことだろう。「でも研究されてこられたところを剥がすのもまた楽しい」と話す前田は、昨季の経験を糧にたくましさを増していることを感じさせた。
 
次節はJ2でしのぎを削った松本との対戦。互いにステージを上げてのマッチアップは、また難しい一戦になりそうだ。