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試合レポート

42分の1試合を積み上げて全員で掴んだ自動昇格。山形の地でたどり着いた境地

 

後半アディショナルタイムに追いつかれ、1-1でタイムアップ。祈りながら町田対東京Vの試合終了を待って、NDスタジアムのアウェイ側ゴール裏が歓喜に沸いた。明治安田J2第42節A山形戦で最後に勝点1を積み上げて、チームは自動昇格によるJ1行き切符を手に入れた。

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落ち着いて入った前半は主導権を握る

 
首位・松本、2位・大分、3位・町田、4位・横浜FCと、4チームが優勝の可能性を残しながら2つの自動昇格枠を争う、2018年J2最終節。史上稀に見る混戦は、開幕から41試合の積み重ねでここまで来たとは言いながら、最後の一戦で明暗を分ける展開となった。
 
ミラーゲームが予想される山形に対しての戦術を、チームは今週も、これまでと同様に通常どおりのトレーニングで確認した。ただし、決戦の地へと向かった選手は19名。山形で14時キックオフというスケジュールを鑑み、不測の事態に備えて、当初のベンチ入り18名に清本拓己を加えて敵地入りした。
 
小雨混じりのNDスタジアムは、前回プレーした昨季4月の底冷えに比べると穏やかな寒さ。だが、やはり時間の経過とともに次第に気温が低下した。
 
試合は予想どおり、スピード感の乏しい硬い入りとなる。だが、選手たちは落ち着いてボールを動かし、相手が動いた背後を突いて攻めた。これまでやってきたことを確実にやれているといった感じの立ち上がりだった。
 
9分、中村駿にミドルシュートを打たれてヒヤリとするが、高木駿のファインセーブでしのぐ。先制は18分。右サイドでパス交換しながら相手のマークを剥がして岩田智輝がドリブルで攻め上がり、藤本憲明と馬場賢治が相手を引き連れてゴール前になだれ込む背後にグラウンダークロスを送って、逆サイドから切れ込んだ星雄次が流し込んだ。大分に残っている岸田翔平への第1子誕生を祝う揺りかごダンスが披露される。
 

奪えない追加点、下がるライン

 
だが、その後も主導権を握りながら追加点が奪えない。36分には星の左CKから三平和司のヘディングシュートがクロスバーに阻まれる。前半終了間際にも岩田がシュートを放ったがサイドネットを揺らすにとどまった。
 
前半終了時点で松本、町田、横浜FCがいずれも0-0の状態だったことも関係していたのだろうか。後半は大分のラインが下がり気味になり、山形がチャンスを作りはじめる。互いにハードワークして潰し合い、好機を築いては精度を欠いて、試合は進む。
 
58分、大分が馬場に代えて小手川宏基を入れプレーの鮮度を保つと、67分、山形は2枚替え。阪野豊史を下げて中山仁斗、本田拓也を下げてアルヴァロ・ロドリゲス。山形の勢いにラインを下げられ、長いボールが増えた大分だが、その精度も低く、頂点で攻め残る藤本の足元に収まらない。そこで片野坂知宏監督は74分、三平を川西翔太へと交代して前線に収まりどころを作ろうとする。川西は試合前々日のトレーニングでもゲーム形式のメニューでシャドーを務める場面があった。
 
その狙いが効果を表す前に、大分は山形の攻撃に後手を踏む。バイタルエリアでボールを動かされ、75分には熊本雄太にヘディングシュートを許すがサイドネット。山形は81分に松本怜大に代えて汰木康也を入れ、内田健太を一列下げて汰木を左WBに配置して攻撃色を強めた。82分には岩田が小林成豪に振り切られ、中山にシュートを打たれた。ここも高木のビッグセーブで九死に一生を得る。
 
重苦しい展開をしのぎながら迎えた試合終盤。松本対徳島は0-0のままで、町田対東京Vは1-1、甲府対横浜FCは横浜FCが1点リードしており、このまま1-0で勝てば大分の優勝が決まる状況だった。
 

スタンドのサポーターたちの歓声を合図に

 
なんとかしのぎ切ればと思っていた90+1分、ついに失点。南秀仁の縦パスのこぼれ球を中山に打たれ、さらにそれをブロックしたこぼれ球に走り込んできたアルヴァロ・ロドリゲスがシュート。弾道は高木の指先をかすめてゴールへと転がり込んだ。
 
片野坂監督は疲労した藤本に代えて林容平をピッチへと送り込む。どんなときも負けじ魂でがむしゃらに頑張れる林に、前線で時間を作ることを望み、ゴールを望んだ。だが、アディショナルタイム4分のリミットまでもう時間がない。町田が勝ち越せば順位が入れ替わり、自動昇格枠を明け渡すことになる。99年J2最終節、やはりアディショナルタイムに1-1に追いつかれてJ1昇格を逃した山形戦の記憶が頭を過ぎる。そのまま長いホイッスルを聞き、選手たちはベンチで長い長い数分間を待つことになった。
 
松本が徳島と引き分けて勝点1を積み優勝を決めたため、残る望みは町田の引き分け以下に懸けるのみだ。固唾を呑む空気に風穴を空けたのは、ゴール裏のサポーターの歓声だった。「終わった!」。その声を合図に、選手とチームスタッフたちも、歓喜の渦に呑み込まれた。町田と東京Vは1-1のドロー。大分は今季を2位でフィニッシュし、見事にJ1自動昇格を勝ち取った。
 

伊佐のインスタグラマーとしての最高の仕事も

 
長い長い、42分の1試合×42節だった。30人中の多くの選手が、出場機会に飢えて過ごしたシーズンだったと思う。J3時代を耐えた選手たちの思いは想像するに余りある。肩を抱き合って嬉し泣きしながら、片野坂監督の嗄れた声にみんなで笑った。
 
伊佐耕平がコンディション不良で帯同していなかったため、いつも勝利後に選手たちの様子を発信してくれる「イサスタグラム」はお預けかと思っていた。だが、ここで伊佐がピッチ外での今季最高の仕事を果たす。大分に残ってクラブハウスで試合を見守っていた選手やスタッフたちの姿を、ライブ配信してくれたのだ。それに応えるように、NDスタジアムからは藤本がチームの様子を配信した。現地で一緒に喜ぶことはできなかったが、山形と大分に分かれながら、スマホの画面越しに、チームはひとつになっていた。
 
おめでとう、大分トリニータ。山形のクラブ関係者やサポーターたちからもあたたかい祝福を受け、われわれは来季、6年ぶりにJ1へと復帰する。