金沢の密封守備に苦戦も魅惑の川西弾で白星をもぎ取り最終節へ
前節の横浜FCに続き、今節の金沢もこちらの長所を消しに来た。攻めあぐねながら辛抱強く相手を動かし続け、セットプレーから先制。一度は追いつかれたが、川西の特長を生かした攻撃を突破口に劇的な決勝弾で白星をもぎ取った。
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丸谷を抑えられ攻めあぐねる展開に
周到にオーガナイズされた守備で対戦相手の長所をケアしつつ好機を狙って自分たちのペースに持ち込む戦法を得意とする金沢。前回対戦では右SHの清原翔平が星雄次をケアしながら守備時に5バックを形成してミラーゲーム状態を作り出し、こちらを手こずらせた。だが、あれから30試合を経てこちらも経験値を上げオプションを増やしている。ビルドアップの際にハイプレスをかけられれば相手最終ラインの背後を狙うという選択肢も持つようになった大分に対し、今回の金沢がどういう対策で来るか。清原が守備のため最終ラインまで落ちるとそこから前線までの距離が遠くなる課題をどう克服するかも含め、柳下正明監督の施策が注目された。
こちらは藤本憲明がコンディション不良で欠場。相手の出方が読めない中、前線のメンバー選考で迷いに迷ったと試合後に明かした片野坂知宏監督は、伊佐耕平を頂点に馬場賢治と清本拓己をシャドーに並べた。今季初の組み合わせだが、勢いのある3人で、相手の背後を取れれば一気にゴールに迫ることもできそうな顔ぶれだ。
だが、金沢の守備戦術はそれを裏切った。トップ下の杉浦恭平が執拗なまでに丸谷拓也をマンマーク。「大分の攻撃は丸谷くんからはじまることが多いので、そこをふさいだ」と試合後の杉浦。大分のボランチの一枚がボールを受けに下がって4バックになったときに枚数を合わせる狙いもあった。高木駿が参加してさらに1枚増やされても、後ろで回されているぶんには構わないと割り切り、リトリートして大分の前線のコンビネーションに備えた。
大分は辛抱強く後ろでパスを回しながら相手を動かそうとする。なかなか動かない相手が球際に出てきた瞬間を狙って岩田智輝が攻めあがろうとするが、金沢の効率的な守備や大分の前線の意思疎通不足でコンビネーションが思うように繰り出せない。松本怜が高い位置までえぐっても、味方が顔を出す前にコースを切られ、やり直しを余儀なくされた。辛抱強く続けながら、相手の疲労や一瞬のスライドのズレを待つしかないような展開だった。
清本〜鈴木ラインから先制もすぐに追いつかれる
それでも前半終了間際にはようやく決定機を築く。43分、岩田の持ち上がりから伊佐が落とし松本が速いグラウンダーのクロス。詰めた馬場にはわずかに合わず、星が折り返すもゴール前を抜けて相手に渡った。続く45分にも岩田の縦パスを受けた馬場がタメて出したスルーパスに松本が走り込みマイナスのクロス。岩田の右足シュートは枠を外れそうなコースだったが清本がさわって軌道修正。相手にブロックされたこぼれ球をふたたび岩田が今度は左足シュートで狙うが、わずかに枠の右に逸れた。
スコアレスで折り返した後半、スコアが立て続けに動く。49分、馬場が後ろから倒されて獲得したFKから大分が先制。キッカー清本の短い助走から放たれた速い弾道にフリーで飛び込んでいったのは鈴木義宜だった。ドンピシャヘッドでネットを揺らす今季初得点だ。だが、ビハインドになった金沢はスピード感を増しながら攻勢を強める。56分、バイタルエリアで垣田裕暉に起点を作られ、杉浦のシュートは一度は高木が弾いたが、そのこぼれ球を清原に押し込まれて試合は振り出しに。
66分、我慢の時間帯を乗り越え相手が疲労してきたことを見極めた片野坂監督は、ここが勝負どころとばかりに馬場と丸谷を三平和司と川西翔太に二枚替えして中盤のモビリティーを高めた。金沢は両SB、特に右の石田峻真が高い位置を取りはじめ、SHが絞って中央に枚数をかける。そのスピーディーなボール回しに主導権を奪われつつ、こちらも負けずに川西と三平がフレキシブルに動きながら局面を作り出していく一進一退の攻防。川西が入ると柳下監督は今度は杉浦に前田凌佑をケアさせるよう指示。さらに77分、大分の右サイドに対応すべく加藤大樹をフレッシュな金子昌広にチェンジ。81分に大分が清本に代えて後藤優介を投入すると、82分に金沢は沼田圭悟を毛利駿也に代えて、さらに左サイドの守備色を強めた。
自身の長所を生かし川西が劇的決勝弾
互いに攻め合いながら組織的に、ときには体を張って守り合い、白熱する試合はドローでは終わらなそうな雰囲気。85分には松本の突破からクロスに星が飛び込み、さらに川西の仕掛けからのこぼれ球を伊佐が反転シュートするなど大分が立て続けにチャンスを築いた直後、ついに追加点を挙げる。松本の持ち上がりを受けた三平がふたたび戻し、松本はそれを逆サイドで大橋尚志と1対1になっていた川西へ。川西は独特の間合いで大橋を剥がすと自ら持ち込んでシュート。弾道は密集を抜けてネットを揺らした。
アディショナルタイム4分ぎりぎりまで金沢の追撃に脅かされながらも、勝点3、そしてその先にあるJ1昇格への強い思いを胸に走りきったチーム。長いホイッスルの瞬間、片野坂監督は浅田飴の缶を握りしめたままガッツポーズし、選手たちは安堵の表情でピッチに崩れ落ちた。
第32節H熊本戦で活躍後、負傷により戦列を離れ9試合ぶりの出場だった川西。今季は試合に絡めず悶々とした時期もあったが、チームメイトたちとそれを乗り越えながら、シーズン大詰めのこの大一番で、自身のプレースタイルを存分に生かして、値千金の決勝点を奪った。また、こちらも9試合ぶりに先発し、流れの中では自身でも不本意な出来だったと思われる清本が、高精度FKで先制点をアシストするなど、選手層の厚さと指揮官の戦力起用の的確さが勝利に結びついた一戦。勢いづかないわけがない。
第41節は11日にもライバルチームの試合が開催され、松本が栃木を、町田が愛媛を、いずれも終盤にセットプレーからの1点で下し劇的勝利を遂げた。10日には横浜FCも岡山に勝利しており、混迷の昇格争いは最終節にもつれ込む。大分としては、とにかく勝ちにいくだけだ。