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試合レポート

攻守に忍耐強さと集中力を発揮した首位攻防戦。松本を下し首位に返り咲く

 

決戦に向けての入念な準備が結実した。リーグ最少失点の松本を根気強く攻略し、ウノゼロで勝利して首位に。主将の馬場は「紅白戦の控え組が松本を想定してややこしいプレーをたくさんしてくれた。チームで得た勝利」と仲間をねぎらった。

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攻め急ぐことなく引いた相手を攻略

 
前田大然とセルジーニョという、松本のストロングポイントを際立たせる2シャドーが欠場。コンディション不良との報道も事前に一部ではあったが、本当に不在で、今節の2シャドーにはテクニシャンの岩上祐三とスピードに長けた石原崇兆が並んだ。前田大然とセルジーニョとはまったく異なるタイプで、当然、攻守でニュアンスも変わってくる。
 
シャドーの顔ぶれが変わったことで、もしかしたらリトリートしてくるのではないかと片野坂知宏監督も想定していたようだ。今節は相手のメンバー構成が読めない中で、この決戦に向けて、いつも以上に入念に戦術的準備が施された。戦術練習では片野坂監督自身もコーチ陣とともに、相手CBを想定してシミュレーション。その際には特に吉坂圭介GKコーチの迫力が抜群だった。
 
馬場賢治によると、非公開の紅白戦でも、控え組による相手を模した厄介なプレーで戦術確認を行えたという。メンバー外となっても献身的な姿勢を貫く選手たちが、全員で好調を支えているようだ。
 
そうやって臨んだ首位攻防戦。コイントスで勝ってコートチェンジした相手は、やはり手堅くリトリートして大分のビルドアップに備えてきた。反町康治監督は試合前に「80分までは0-0でもいい」とどのタイミングかでのワンチャンスに懸け、片野坂監督も「最少スコアの勝負になる可能性がある。90分間での戦いをマネジメントしなくては」と話していたが、その読みどおりに堅い展開となる。
 
これまでのそういう相手に対し失敗したことを糧に、大分は決して攻め急ぐことなくじっくりとボールを動かして松本を攻略にかかった。松本は網を張って待ち構える中で大分のパスミスを狙い、奪うと1トップの高崎寛之へとボールを集めて攻めた。だが、鈴木義宜と福森直也が高崎を潰してボールを収めさせない。守備に追われていた岩上と石原は前線への関わりが遅れて高崎を孤立させ、セカンドボールはほぼ大分のものとなった。
 

集中した守備で1点のリードを守りきる

 
ボールはほぼ大分が握っていたが、松本も効率的な守備で大分を自由にはさせてくれない。それでも辛抱強くボールを動かし続けた32分、ようやく最初のシュートを放つチャンスが訪れた。
 
三平和司のパスが短くなり相手に拾われたところへ、三平自身がスライディングタックル。こぼれ球を馬場がワンタッチで前田凌佑に出し、前田から受けた丸谷拓也が藤本にクサビを入れると、藤本は立ち上がって走り込んできた三平へとパス。最後は三平がゴール左上に蹴り込んで、先制点を奪った。
 
先制点がカギになると両指揮官は事前に話していたが、1点リードしたところで松本にはワンチャンスを勝点に結びつける力がある。1-0で折り返した後半、松本は布陣の重心をやや前へと修正するとともに62分には高崎を永井龍に代えて、前線からチェイスさせながらDFラインの背後を狙う戦法へと切り替えた。
 
それでもシャドーやボランチが体を張って中盤の主導権を明け渡さない大分が多くチャンスを作る展開は続く。52分には星雄次のシュートがポストに弾かれ、54分には藤本憲明のシュートが枠を外れる。59分には松本怜のマイナスのクロスに馬場が走り込んだが、これはGK守田達弥の好守に阻まれた。決定機を逃すうちに相手に流れが傾くのを食い止めるように、次第にオープンな展開となる中、片野坂監督は71分、三平と馬場を伊佐耕平と後藤優介に交代する。1トップは藤本のまま、シャドーに伊佐と後藤が並んだ形だ。
 
同時に松本も岩間雄大を下げて岡本知剛、82分には下川陽太に代えて三島康平を投入し、攻撃色を強めて追撃に出る。前線へのフィードや岩上のロングスローを含むセットプレーでパワーをかけてくる松本に対し、大分はよく整理された組織的守備でほころびを作らない。89分に藤本に代えて小手川宏基を投入し、攻守にバランスを保ちながら乗り切るアディショナルタイムは3分。1点のリードを守りきったとき、ピッチもベンチもスタンドも、安堵と歓喜で満ちあふれた。
 

残り3試合、徐々に流れをつかみたい

 
この日、1万5125人を集めた大分銀行ドームでは、試合前、スタンドに7枚のビッグフラッグが掲げられた。迫力満点の壮観な光景は、観衆の声援とともにピッチを後押しする力となった。松本からも約800人のサポーターが駆けつけ、シーズン大詰めの頂上決戦にふさわしい雰囲気。松本のチームコンディションは万全とは言えなかったかもしれないが、それでも互いの長所を出しあった消耗戦は、見ごたえのある面白いゲームだった。
 
勝点1差をひっくり返して首位に返り咲いたチームは次節も、アウェイで横浜FCとの直接対決に臨む。横浜FCは今節、徳島に勝利して4位に浮上。町田が敗れ、福岡と東京Vが引き分けて、昇格争いのライバルで今節勝利したのは横浜FCと大分だけという状況だ。だが、横浜FCは次節、イバと野村直輝が累積警告により出場停止。他のライバルチームも3試合を残し、主力メンバーに累積リーチの選手がちらほらと見える。
 
その中で累積リーチのいない大分は、大きなアドバンテージをもって戦うことができる状態だ。とはいえ選手層の厚い今季は、戦力が入れ替わってもチームの総合力が大きく落ちることはない。
 
ここに来て戦術浸透のみならず、きめ細やかになされてきたチームマネジメントが好条件を生み出している。チームは今季目標のひとつとして掲げていた勝点70を、今節の勝利で達成。ただ、大混戦のため、昇格争いの行方はぎりぎりまでもつれ込みそうで、まだ何も決まっていない。
 
片野坂監督は細心の注意を払いながら、残り3試合へとチームを導いていく。選手たちはこれまで同様に、目の前の一戦に全力を傾けるだけだ。