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試合レポート

殺伐とした中盤の主導権争い。勝点1と状況判断の経験値は大きな収穫に変えられる

 

白熱の上位対決。6ポイントの価値を争う明治安田J2第29節A東京V戦は、互いの細やかなポジショニング変化による殺伐とした攻防の末に勝点1を分け合う結果となった。

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ミラーゲームにおいて最初は主導権を握る

 
スコアが動かずトランジションにも乏しい、かといって膠着しているかといえば決してそうでもない展開。中盤で繰り広げられる緊迫した主導権争いは、派手なボールの奪い合いではなく、細やかなポジショニング変化による殺伐とした攻防となった。互いに決定機は作り10本超のシュートも放ったが、両守護神の活躍もあり、地味にしてハイレベルな一戦はスコアレスドローに終わった。
 
もとより戦術家のロティーナ監督率いる東京Vは、畠中慎之介の移籍と渡辺皓太のU-21代表招集が戦術面にどう影響を及ぼすかも気になるところだった。蓋を開けてみれば3-5-2だったのだが、立ち上がりは右WBに配置された藤本寛也が守備時と攻撃時で大きく立ち位置を変え、それにそって全体がスライドしていた中で、大分の選手たちはそれを可変気味にとらえていたようだった。
 
完全にこちらに枚数を合わせてきたのは、前回対戦でプレスに行ったところを剥がされた経験を踏まえたものでもあったようだ。ただ、起点としたいドウグラス・ヴィエイラが大分守備陣を上回れず、中盤でも大分が球際で競り勝っていたことで、主導権は大分が握る前半となった。
 
藤本寛也が下がって那須川将大についていたことで、立ち上がりからしばらくは相手の3センター脇で前田凌佑が躍動したが、何度か作った決定機をものにできないうちに東京Vが修正。藤本寛也が位置を高め、前田の背後で佐藤優平が藤本とギャップを作りながら顔を出すようになると、東京Vの時間帯が増えていった。
 

互いにポジショニングを修正し、ぎりぎりの攻防

 
後半になると東京Vがさらに立ち位置を修正。特に前半はサイドに顔を出すことが多かった佐藤優平と梶川諒太がハーフスペースを使ってダイアゴナルに走ることなどにより、ゴール前でのチャンスを増やしていった。
 
それに対する大分は、前半と逆転したようなポジショニングとなる。特に右サイドは相手の変化に対応する形で、WB松本怜が前に位置取り、ボランチ小手川宏基とCB岩田智輝も立ち位置を変えて、変則的な縦関係を構築。これはおそらく小手川の機転で、バランスを取ることに最も長けた小手川が、変化しつつ機動力も繰り出す東京Vの攻撃に対応しつつ、岩田と松本の攻撃の勢いを引き出して自身もさらに絡む狙いがあったのだと思われる。
 
そういった“細かすぎて伝わりにくい攻防”を繰り広げながら、試合はじりじりと進んだ。高さと強さのある東京Vに対してショートCKから松本がボールを入れるなどリスタートでもデザインプレーで工夫を凝らしていたが、精度を欠いたり結局はシンプルになりすぎたりして決定的なチャンスは少なかった。引いた相手を動かすにあたり個で打開するトライがほとんど見られなかったことも、やや物足りなさにつながった。
 
ただ、守備での集中を最後まで保てたこと、高木駿のビッグセーブ連発にも助けられて勝点1を持ち帰れたことは、決して悪い結果ではなかった。難敵・東京Vとの6ポイントゲームはこの時点では痛み分けとなったが、互いに積み上げた勝点1と、このタフなゲームでの経験を今後に生かせれば、収穫は大きかったと、あとあと振り返ることができるはずだ。