シュート12本もむなしく、ワンチャンスを決められ敗戦

　
川井健太監督体制になってから徐々に戦い方の幅を広げている愛媛が、今節に向けてどう出てくるのかがまず読みづらかった。前節に続き本職がボランチの神谷優太を前線に置いた布陣。立ち上がりは特に左サイドの小暮大器が激しく上下動してスライドし、傍目には3バックなのか4バックなのかがわかりづらい状況だった。だが、フォーメーションの解釈はさておき、相手の取る立ち位置に関するチームのスカウティングはハマっていたようだ。
　
今節、片野坂知宏監督が選んだ先発には、今季初出場の前田凌佑と、岩田智輝の若手2人が名を並べた。前田は丸谷拓也とのダブルボランチ、岩田は右CBでの起用。公開されたトレーニングでやっていたのとは異なる形ではあったが、好調で勢いのある戦力を使ったということなのだろう。
　
立ち上がりは愛媛もアグレッシブに入ったが、まもなく5-4-1のブロックでスペースを消した。ここ最近、相手の大分対策として定番化しているやり方だ。試合の入りでは失点しなくなったものの、引いて守る相手から得点できない課題が今節も浮き彫りになった。
　
11分、右CK時にエリア内で鈴木義宜が倒されてPKを獲得するチャンス。だが後藤優介のキックは愛媛守護神・岡本昌弘に読まれ片手で掻き出されてしまった。そのこぼれ球に反応した星雄次のシュートも枠をとらえきれず。
　
ボールを動かして攻め込みながら相手に潰され続けるうち、36分に相手に先制点を奪われてしまう。西岡大輝のロングフィードを玉林睦実が落とし、それを拾った近藤貴司がドリブルでえぐってゴール前にマイナスのグラウンダーパスを送ると、スライディングしてきた神谷優太が押し込んだ。
　

　
40分にはバイタルエリアでボールを動かし、相手を崩した状態から馬場賢治の横パスに後藤が合わせたが、弾道は大きく枠の上へ。
　
リードした愛媛がさらに守備を固める中、片野坂監督は丸谷拓也を下げて三平和司を投入し、後半頭から布陣を3-5-2へと変更して前線に枚数をかけた。引いた相手に揺さぶりをかけながらエリア内まで進入はするものの、ほぼ全員が自陣で体を張る愛媛に阻まれて手こずることになる。攻めあぐねは判断の遅れや出足の遅さにもつながった。
　
60分、大分が藤本憲明に代えて伊佐耕平を送り込むと、愛媛も同じタイミングで野澤英之をウサンホに代え中盤の強度を維持した。64分、後藤のシュートのこぼれ球を松本怜が戻し、岩田がミドルシュート。迫力満点の攻撃だったが、ボールは惜しくもクロスバーに当たって跳ね返った。65分には、岩田のクロスに三平が頭で合わせたが、これは枠の上へ。
　
67分、愛媛は近藤を下げて吉田眞紀人を投入して押し返す圧を増すが、大分の追撃は緩まない。77分には福森直也を下げて星を最終ラインに落とし、清本拓己を入れてその勢いを生かし左サイドから好機構築を狙った。ほとんど1バック状態での攻め込みが続く。81分には右サイドをえぐった松本の折り返しを馬場がスルーし前田がシュートするが、玉林にブロックに遭った。84分には清本のシュートが岡本のファインセーブに阻まれる。
　
なんとか勝点を拾おうとアディショナルタイム4分ぎりぎりまでパワーをかけて攻めたが、愛媛の牙城をついに崩せず。12本のシュートもむなしく、2本のシュートのうち1本を決められて敗戦となった。
　

　
好調の愛媛は迷いなくプレーし、シンプルに前線に預けて得点すると全員で明確に守った。大分はここ最近、得点の取れていない試合では、狙いは出せているが攻撃の形がはっきりと見えない。
　
片野坂監督は試合後、相手に対策されていることをその要因に挙げた。こちらも毎試合、スカウティングに基づいた相手対策を講じており、今節のトレーニングでも異なるフォーメーションでの戦術確認を行った。結果的にこの試合ではそれを採用することはなかったが、新たなオプションが準備された形だ。
　
昨季築いたベースにオプションが増えていくことで、まだそれを上手く体現できていないという見方もできる。指揮官は「攻撃の幅を広げるためにもいまいろんな戦術を提示してチャレンジさせているのだが、それでもなかなか点が取れないのは、個人のところなのか最後の質なのか」と苦悩したが、これがシーズン終盤に結実してぐっと上昇曲線を描くのか、それまで持ちこたえずに失速していくのか。
　
選手の状態の見極めについて、自身に対しても厳しい言葉を向けた片野坂監督。最近は何かにつけて「トレーニングからしっかり取り組む姿勢が大事」という言葉が出る。現状をいい方向へと向けるために、監督以下コーチ陣がどのような選択をし、選手たちがそれにどう応えていくか。夏の正念場が続いている。