攻略と防戦の陰で繰り広げた中盤の戦い。1点を死守し勝ち点40に到達
隣のチームと迎えた上位対決。12000人を集めた九州ダービーは、1点をめぐる死闘の様相に。最後まで全員で体を張って耐え、つかんだ勝利の陰で、献身的に地味な役割をこなしたメンバーの存在にもスポットライトを当てたくなる一戦だった。
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藤本の2戦連続ゴールで先制
福岡の出方は読みづらかった。累積警告による出場停止で松田力が不在。複数の選手のコンディションが不明。前節、新潟に敗れて今節は変えてくる可能性もある。4バックなのか3バックなのか、そしてメンバーは…。
蓋を開けてみると、スタートのシステムは5-3-2。鈴木惇をアンカーに、怪我明けの枝村匠馬と石津大介を中盤の左右に並べてブロックを築き、大分のビルドアップの過程で引っ掛けて、前線に並べたドゥドゥと森本貴幸のパワーを生かしたカウンター攻撃を狙ってきた。
持たされる形になった大分は、ボールを動かしながら攻略にかかる。食いついてこない相手に対して攻めあぐねたりミスからロストしてカウンターを受けたりもしたが、19分、先制点を挙げる。國分伸太郎の縦パスを巧みに引き出した藤本憲明が馬場賢治に預け、馬場からの展開を受けた松本怜がワンタッチでクロスを入れると、相手守備陣の死角からニアに飛び込んだ藤本が頭でゴールゲット。藤本は前節の松本戦と2戦連続得点となった。さらに25分には右CKのこぼれ球から小手川宏基が豪快なミドルシュート。これは惜しくもクロスバーに阻まれた。
リードしたことで相手が前に出てくるようになれば、その背後を突きやすくなるというのが大分のセオリー。だが、ギアを上げた福岡の威力はそれを上回っていた。
中盤の枚数を増やして福岡の追撃に対応
クレバーでポジショニング能力に長ける枝村と技術が高く強い推進力を持つ石津を起用した井原正巳監督の狙いどおり、試合の要所は中盤の攻防へと持ち込まれていった。大分としては当初、サイドからの攻撃で相手を崩すプランだったのだが、枝村が高い位置を取り、石津が攻守に存在感を増しはじめると、鈴木惇がフリーで配球する場面も増えて、ドゥドゥを軸に福岡が大分を押し込みはじめる。
1-0のまま折り返したものの、福岡の勢いが増すことを受け、片野坂知宏監督はプラン変更に踏み切った。56分、宮阪政樹に代えて川西翔太を投入し、小手川、馬場とのトリプルボランチを形成。藤本と國分を縦関係にして、國分に鈴木惇をケアさせた。
これで大分のシステムは5-3-2。対する福岡は両WBも高い位置を取って3-5-2状態となり、ちょうど試合開始時と真逆の立ち位置のようになった。
63分には福岡が二枚替え。枝村の位置に城後寿、森本の位置に木戸皓貴を入れて勢いを保つ。1点を追って前がかりになる福岡の圧力を受け、大分は防戦一方にまで押し込まれた。
全員で耐えて勝ち点3をつかむ
片野坂監督は68分、國分に代えて伊佐耕平を投入。前線にボールの収まりどころを作って、押し込まれた状態でボールを奪ったときの逃げ場を確保した。さらに73分には藤本に代えて三平和司。前線で時間を作りつつ、福岡の背後を突いて伊佐とのコンビネーション、さらに川西も加えてのカウンターを狙った。
何度かその形でチャンスも築いたが、岩下敬輔を中心とする福岡の守備陣もピンポイントで大分のチャンスを叩き潰す。大分としてはカウンター返しへのリスクマネジメントもあって、無理に攻めることはせず、最低限攻め切ることに努めた模様だ。
大分が中の枚数を増やしたと見ると、鈴木惇がサイドを使いはじめる。自身がサイドから配球したり、逆サイドに流れたドゥドゥを使ったりと幅を生かして大分を攻め立てた。平尾壮やユ・インスの両WBや最終ラインの實藤友紀、鈴木惇も積極的にゴールを狙ってくる。その怒涛の攻撃を、大分は前線2枚を残した全員で体を張り跳ね返し続けた。守護神・高木駿の度重なるファインセーブや3CBによるシュートブロックに鼓舞されつつ、ひたすら耐える時間が続く。
福岡は81分には平尾を輪湖直樹に代えてさらに攻めたが、大分はボールを奪うと松本の爆速ドリブルカウンターで時間を消費しつつアディショナルタイム4分もしのぎ切って、ついに虎の子の1点を死守。ダービーらしい白熱した試合をものにして、勝ち点を40へと伸ばした。
殊勲の決勝点を奪った藤本や神セーブでチームを盛り立てた高木の活躍は言うまでもなく、チーム全員が一丸となって勝利へと向かったことが、何よりの勝因となった。そしてゴール前の派手な攻防の陰で、この試合の主導権を地味に争っていたのは、采配合戦も含めた中盤の攻防だ。足元の技術を生かして繰り返し押し上げを試みた川西と、枝村や石津をケアしながら攻守にわたり必要なところに必要なタイミングで顔を出し続けた馬場と小手川。彼らの目立たないけれど重要な活躍もこの勝利を支えていたのだということを、決して見逃したくない一戦だった。