綿密に準備し遂行した対岐阜戦術。苦しい展開も三平の劇的決勝弾で勝ち点30到達
いつもとは異なるフォーメーションで相手対策を施して臨んだ一戦。その狙いはハマりながらも後半は押し込まれる時間帯が続き、一時は勝ち点1で御の字かとも思われたが、アディショナルタイムに劇的決勝弾。他チームに先駆けて勝ち点を30の大台に乗せた。
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徹底した“変態サッカー”の意趣返し
試合後、片野坂知宏監督に「変態vs変態の戦いでしたね!」と言うと「はい。変態になりました」と笑った。徹底してショートパスをつないで崩す大木武監督の個性的なスタイルは(あくまでも賛辞として)もはや“変態サッカー”の域に達しているが、今節の片野坂監督は、それにこちらなりの“変態サッカー”で意趣返しした形だ。
公開されていた練習でも4バックを試しており、4-3-3の相手に対して最終ラインの枚数を合わせるという点では昨季の岐阜戦と同じだったが、今季のチームはさらにそこからの成長を確かめたいと考えていたようだ。
昨季は流動的な相手の攻撃を、4-4のブロックでスペースを消すことでしのぐ手に出た。第12節のアウェイ戦ではその狙いがハマり、相手に70%近いポゼッション率を明け渡して934本のパスをつながれながら、試合には2-1で勝利した。第36節のホーム戦にも同じ戦術で臨み2点リードしたまでは良かったが、想定外にも岐阜が3バックに変更してきたことで対応が後手に回る。一時は逆転され、川西翔太のアディショナルタイム弾で辛くも勝ち点1を得る結果となった。
相手の攻撃を敢えて受けることが昨季の“岐阜封じ”だったが、今後チームが上を目指すためにも今季はさらなる成長の証を見せたい、というのが指揮官の意向。岐阜も昨季より守備のアグレッシブさを増しており、球際へのプレッシャーが激しくなっている。そのハイプレスをかいくぐりながらボールを前へと運んでいく強さを打ち出そうと考えた。
フォーメーションは昨季と同じ4バックながら、今回は4-3-3。相手にボールを持たれることを想定し、それでも重心が低くならないよう相手と枚数を合わせて中盤を厚くした。ブロックを作るときには4-5-1の形を取ることになる。
相手を封じつつこちらの時間帯も作る狙い
岐阜の流動的な攻撃に対し、選手たちはピッチで状況を見極めながら変則的に対応した。前半は相手のハイプレスをいなしながら辛抱強く後ろでボールを動かし、何度か狙いどおりのチャンスを作った。39分には松本怜のグラウンダークロスに馬場賢治が飛び込む絶好機も、わずかに合わず。岐阜も両サイドからクロスを入れては大分ゴールを狙うが、守備陣がゴール前で素早くカットしてシュートは打たせない。
だが、44分に先制点を奪われる。風間宏矢の左CKを田森大己がニアですらし、ファーサイドで待ち構えていた古橋亨梧がヘディングで叩き込んだ。
嫌なムードを払拭したのは後半立ち上がりの同点弾だった。48分、福森直也のフィードに抜け出した伊佐耕平が、難しい体勢からも迷いなく左足を振り抜いてゴール右隅に流し込む。
互いに攻め合い相手の好守に阻まれながら1-1で過ごすうちに、大分の運動量がやや落ちた時間帯、2度の大きなピンチを迎える。62分、風間のクロスに田中パウロ淳一が飛び込んだこぼれ球を走り込んできた宮本航汰に狙われるが、シュートが枠の左へそれて命拾い。72分には古橋のグラウンダークロスに田中が合わせたところを高木駿がビッグセーブ。そのこぼれ球へと風間も詰めたが、福森がスライディングで防ぐとともに、ライン際で松本がかき出して間一髪でしのいだ。
粘り強さが結実した90+2分の劇的な結末
岐阜は56分にライアン・デ・フリースを下げ、風間を一列上げて三島頌平をインサイドハーフに配置。大分が63分、後藤優介を清本拓己に代えると、岐阜は73分に風間に代えて1トップに難波宏明。76分には大分が馬場を下げて川西をインサイドハーフに入れ、小手川を左SHへと移した。続いて80分には伊佐を下げて三平和司を入れ、川西とともにボールを落ち着かせることでラインを押し上げようと目論む。岐阜は90分、田中を下げDFの長沼洋一を投入した。
互いにカードを切り合いながら、勢いを落とさない相手に押し込まれ、「1-1で終了すれば御の字」といった雰囲気も漂っていた後半アディショナルタイム。川西が激しくスライディングしてマイボールにしたところから、劇的な結末がはじまった。それを拾った小手川が相手の背後へと浮き球を送ると、右からカットインしてきた清本がシュート。岐阜の守護神ビクトルに阻まれたが、そのこぼれ球を三平が左足でシュートすると、ボールは相手に当たりポストに跳ね返って再び相手の足元へ。そのときゴールラインを割ったと、副審がフラッグを上げた。90+2分、三平の今季初ゴールが値千金の決勝弾となった瞬間だった。
最後は運も味方につけた形だが、この結末へとたどり着けたのは、選手たちが指揮官の立案した戦術の下、共通理解をもって組織的に戦えたからこそだった。今季は試合ごとの細やかな狙いを体現するために、その都度、30人の中から最適な戦力をチョイスして臨んでいる。タイプの異なる戦力を用いたりフォーメーションを変えたりしてもチームコンセプトは変わらず体現できるのが、指揮官の手腕でもあり選手たちの力量でもあるのだろう。
次節は2位・山口との上位対決。今節勝利してこの対戦に臨めることは、心理的にも大きなアドバンテージだ。現在の順位にふさわしい試合運びとまではまだ至らないが、シーズン終了時の目標達成に向けて、一歩一歩確実に力をつけていきたい。