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試合レポート

前半は馬場賢治のハットトリックも、後半は難しい展開を招き反省しきり

 

互いのスタイルをぶつけ合う予定が、開始早々に崩れた。当初の狙いはハマったが、大量リードに相手の数的不利という難しい展開の中で優勢を維持できなかった。辛くも逃げ切って勝利したが、得失点差を稼ぐチャンスは自ら逃してしまった形だ。

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アクシデント続出のめまぐるしい前半

 
幅と奥行きを使ってのびやかに攻める“片野坂大分”と、縦横にコンパクトな布陣でアグレッシブな組織的守備から入る“相馬町田”は、昨季3度にわたる対戦でも、互いにそれぞれのスタイルをぶつけ合う好ゲームを演じてきた。大分が町田に揺さぶりをかけて崩すのか、町田が激しいプレスで大分の意図を阻むのか。今節もそんな試合が期待されていた。
 
大分はその狙いをより効果的にするために、先発1トップを前節の林容平から伊佐耕平へとチェンジ。伊佐のスピードと勢いで相手の背後を突く狙いだった。
 
立ち上がりから狙いはハマり、大きなサイドチェンジがビッグチャンスを生む。1分、刀根亮輔が逆サイド前線のスペースへと送ったフィードを馬場賢治がシンプルにシュート。枠は外したが、これでリラックスできたという馬場はその2分後、松本怜からのクロスを胸トラップして持ち込むと、今度は冷静に流し込んだ。
 
町田もセットプレーでチャンスを作るが、そこからのカウンターを防ごうとして、12分、背後に抜け出した伊佐の腰を抱きかかえてしまった深津康太が一発退場に。相馬直樹監督は右SHの吉濱遼平をベンチに下げ、CB藤井航大を深津の位置に入れて、右SHに中村祐也を、左SHに杉森考起を回して中島裕希を頂点とする4-4-1にすることで、この緊急事態に対応した。
 
29分には後藤優介が足の痛みで動けなくなり、交代を直訴。代わりに清本拓己を入れ、大分も予定外のカードを切ることになったが、31分には追加点が生まれる。宮阪政樹が星雄次へと展開し、星からのパスを受けた伊佐が落としたところへ走り込んだ馬場が決めた。
 
だが、攻め続ける大分に対し、町田も粘り強くしのぐ。10人になってむしろギアを上げたような町田に、このままではやられてしまうと思いはじめたところで、45分、星の折り返しを馬場が沈めてハットトリック。試合前にクラブも「あと3点でJ2ホーム通算300得点」とアナウンスしていたが、まさかこの試合の前半にその記録が達成されてしまうとは予想外だった。
 

中途半端なスタンスが相手に猛追を許す

 
大量リードや相手の退場が試合展開を難しくすることは、サッカーでは往々にしてあることだが、それが同時に訪れたこのゲームも例外ではなかった。
 
片野坂知宏監督もそれを警戒して、ハーフタイムには選手たちの気を引き締めさせたのだが、懸念は残念ながらそのとおりになり、47分、町田に反撃の狼煙を許す。左CKの流れから井上裕大が入れたクロスに、酒井隆介が頭で合わせて1点を返した。
 
2点差となったことで町田は勢いを増す。56分には中村に代えて“大分キラー”のエース・鈴木孝司を頂点に送り込み、中島を右SHに回して攻撃を強化。さらに67分には杉森に代えて平戸太貴を入れ、10人で戦える態勢を維持する。大分はボールを握りながらも、2点のリードを守って攻め急がずに回すのか、追加点を取りにいくのかがはっきりせず中途半端に。何度か迎えた決定機を外すうちに、球際や走力で大分を上回る町田が次第に流れを引き寄せていった。
 
そんな中、78分、ロメロ・フランクが負傷。すでに3枚の交代カードを切り終わっていた町田は9人で戦わざるを得なくなるが、2人の数的不利でもあきらめることなく、得意のハイプレスを抑制して4-3-1のブロックで守備を固め、鈴木や中島の強度を生かして追撃を続ける。
 
決定機を仕留めきれず、攻めるのか攻めないのかはっきりしない大分は、79分、馬場を下げて三平和司を投入。三平の好機演出もゴールを奪うまでには至らないうちに、84分、大谷尚輝のクロスに平戸が飛び込んで町田が1点差へと詰め寄った。追いつかれそうな流れを食い止めるため、片野坂監督は88分、星を下げて竹内彬を最終ラインの真ん中に入れ、鈴木義宜を右に、刀根亮輔を左に、福森直也を左WBに上げて、守備を強化しつつ福森の攻撃参加にも期待する。
 
90分、カウンターで抜け出した清本のパスを伊佐が流し込んで、ようやく4点目。だが、ふたたび2点差に開いたことに安心する間もなく、90+3分、奥山政幸のFKから藤井に頭で押し込まれて3失点目を喫する。
 
終わってみればスコアは4-3。後半は相手に猛追を許し、辛くも逃げ切ったという勝ち方に、選手たちの顔色は晴れず、指揮官は激怒していた。
 

この苦い経験を糧と出来るか

 
「緩みや隙があったのか、疲労していたのか…」と、試合後の会見で片野坂監督は嘆いた。3点のリードと相手の数的不利が招いた難しい展開の中でも、意思統一して相手を上回り、圧倒して勝利しなくてはならないゲームだった。
 
一方で、これまでも退場者を出した試合でほとんど負けたことがなかったという町田は、日頃からチームにそういうリバウンドメンタリティーが植え付けられていたのだろうと思われる。後半立ち上がりの得点を合図に、めざましいギアの上げっぷりを披露した。独自のスタイルの中で割り切るところは割り切りながら、交代で入ってきた選手を含め、戦力個々の特長を生かす戦い方へとシフトして、後半だけ見れば完全に相手を圧倒するゲームを繰り広げた。試合後会見で相馬監督は、前半の出来に関して試合前のマネジメントミスだと自身を責めたが、あきらめない姿勢を貫いたチーム作りはお見事と言うほかない。
 
ハットトリックにメモリアルゴールと話題性満載の馬場も、それよりも決定機を外したことへの残念さのほうが先に立っているようだった。
 
ここ最近は安定したセービングで失点を防いでいた高木駿は、自身の守備のオーガナイズ不足を反省しながら、同時に攻撃への課題を口にする。確かに前半に見せたようなテンポ良いボール回しを後半も続けることが出来ていれば、こんな展開は防げたかもしれない。時間を使いながら相手を走らせるのか、追加点を狙いに行くのかの意思疎通を、早い段階で徹底するべきだった。
 
今後の戦いに向けて得失点差を荒稼ぎしておくチャンスを、自ら逃してしまったとも言える。この苦い経験を糧として、チームを圧倒的に常勝できる集団へと成長させていくことを、指揮官は厳しい表情で誓った。
 

おまけ:試合前の三平和司