TORITENトリテン

試合レポート

WBの繊細なポジショニングがカギ。粘り強く戦術遂行し、88分に決勝点

 

晴れたり降ったりと空模様がコロコロと変化し、攻守の入れ替わりも激しい、なんともめまぐるしい一戦となった。チームは濡れすぎたピッチに苦心しながら、対京都戦術を粘り強く遂行して勝ち点3を奪った。

試合情報はこちら

狙いはサイドでの絶妙な駆け引き

 
試合前に突然の雨。それもすぐに上がって晴れた。気温は低いが陽が射すと少し蒸す。途中で小雨が降ったかと思えばハーフタイムには大きな虹。後半には一瞬だけ土砂降りの通り雨。そんな空模様だけでなく、攻守の切り替えもめまぐるしい一戦となった。
 
ここまでの7試合、ボランチは丸谷拓也と宮阪政樹で固定されていたが、今節は丸谷がコンディション不良によりメンバーを外れた。代わりに姫野宥弥が今季初出場となる。あとは前節と同じメンバーでスタートした。
 
この試合では、もしかしたら大分がいつもより守りに入っている印象を抱いた人もいたかもしれない。だが実際はそうではない。そう見えたのだとしたら、対京都の戦術において、特に両WBが繊細にポジショニングしていたことによるものだ。
 
4-3-3の布陣を敷く京都は、ウイングが大きく外に張り出して大分のWBを上らせないように阻む。そうしておいてSBが高い位置を取り、1トップのレンゾ・ロペス目掛けてアーリークロスを入れてくる。そのサイド攻撃に対応しながら攻め返すのが、今節のチームの狙いだった。
 
それに備えて試合前々日の攻撃練習では、片側サイドずつでボールの動かし方を確認した。WBは敢えて高い位置を取らず、相手ウイングのプレスをかわして相手インサイドハーフの位置を確かめパスコースを選択する。上がってくる相手SBには、シャドーが戻ってチェックした。
 
上手く相手を剥がしてインサイドハーフを越えれば、アンカー脇に広大なスペースがひらけている。相手が帰陣するより早くフィニッシュまで持ち込んで仕留めたい。そのためにWBは、相手を引き込みつつ、いつでも攻撃に出ていけるポジショニングを取ろうとし続けていたのだった。
 

選手交代で互いに流れを引き寄せ合う

 
だが、その戦術の最大の敵となったのはピッチコンディションだった。前線にボールが入ったらスピーディーに好機必殺を狙いたいのに、ピッチが雨で濡れすぎていてボールが足につかない。特にワンタッチやフリックの制御は難しく、それを生命線としている大分の攻撃には厳しい環境だった。
 
フィニッシュまで行けず相手に奪われては攻め返される。こちらも相手の縦パスが入る瞬間を狙い、特に姫野は闘莉王や仙頭啓矢にこまめに寄せ続けた。互いに足元でミスが頻発し、事故的にスコアが動く展開になりそうだったが、どちらも精度を欠いたりGKの好セーブやCBのシュートブロックに遭ったりしてネットを揺らしきれない。
 
京都は後半頭から、エスクデロ競飛王を下げ、闘莉王を上がらせることも計算してか、バランスを取れる望月嶺臣を投入する。濡れたピッチに慣れて少しずつボールが収まるようになってきた大分は63分、献身的に走った馬場賢治に代えて清本拓己を送り込んだ。布部陽功監督は闘莉王に高い位置を取るように指示し、70分にはレンゾ・ロペスに代えて大野耀平。大野はいきなり反転シュートのチャンスを迎えたり激しくチェイスしたりと、京都の前線に勢いをもたらした。
 
片野坂知宏監督は74分、姫野に代えて川西翔太。今日はボランチでの出場となった川西のテクニックは、このピッチコンディションにも、高い位置で起点を作って組み立てる闘莉王のポジショニングに対しても、効果的に作用した。両軍とも紙一重のチャンスを逃しながら、3枚目のカードを切る。京都は80分に闘莉王を下げ岩崎悠人を入れて大野との2トップに。大分は84分に林容平を下げて三平和司を頂点に。
 
岩崎が前線を活性化し、小屋松知哉も最後までスピードを落とすことなく仕掛け続けたが、松本怜、刀根亮輔が集中して対応。試合前からこの試合での守備の重要性を話していた宮阪も、3バックとともに献身的に体を張った。雨ながら高木駿も落ち着いて処理する。
 

狙いどおりサイドで剥がしての得点

 
このままスコアレスドローで勝ち点1を分け合うのかと思われた88分、ついにこの試合で唯一の得点が生まれた。
 
宮阪と協力しながら小屋松からボールを奪った川西が、松本とのワンツーを経てスペースに抜け出した後藤へとスルーパス。後藤がややマイナス気味に中へ送ると、相手を引き連れてニアに走り込んできた三平が潰れ役となり、その後ろから清本がグラウンダーで流し込んだ。ここまで何度もファインセーブでしのいできた京都守護神・清水圭介も飛びつこうとしたが間に合わず。
 
まさにこれが、サイドで相手を引きつけて生んだスペースを使い築いたチャンスからの得点。特に前半はピッチコンディションに悩まされ、なかなかフィニッシュに持ち込めなかったが、粘り強く最後まで当初の狙いを貫いて引き寄せた勝ち点3だった。
 
攻撃練習の際に片野坂監督自らが相手ウイングやインサイドハーフのプレスを真似てシミュレーションしながら落とし込んだ戦術を、全員で遂行しての勝利は格別だ。決勝点を決めた清本は2試合連続ゴール。起点となった川西、潰れた三平と途中出場のメンバーが得点に絡んだのも前節と同じだ。
 
最後までどちらに転ぶかわからなかったが、こういうタフなゲームで勝ち切れたことは大きい。チームを暫定首位に押し上げる4連勝で着実に勝ち点を積みつつ、選手たちはそれぞれに課題を見つけ、満足していない。次節の横浜FC戦に向けて、また一丸となっての準備がはじまる。