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試合レポート

“お得意様”返上。初志貫徹の姿勢が大銀ドームでの歴史的勝利を引き寄せた

 

ともに調子を上げて今季初の3連勝を狙う同士。過去の対戦成績では相性最悪の千葉を、4-0で下した。明治安田J2第7節H千葉戦は、このチームがスタイルを貫く勇気と、それによってもたらされるものを、結果で示してくれた。

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ベンチメンバーのうち5人が攻撃陣

 
千葉の出方が読めなかった今節に向けて、攻撃練習は相手が3-4-2-1で臨むことを想定して行われた。特にボランチより前に個の能力の高い選手が多い千葉に対し、どうボールを動かしてバイタルエリアへと持ち込むかをシミュレーションしていた。同時に片野坂知宏監督は、相手が試合途中に4-3-3や4-2-3-1にシステム変更してくる可能性も見据え、また、さまざまな試合展開も想定してプランを練った。
 
試合前に「10人入れられるなら10人入れたいくらい」と真顔で言っていたベンチメンバーで、守備陣は修行智仁と竹内彬のみ。状況によって1トップ2シャドーの組み合わせを何パターンも作れるよう、さまざまなタイプを控えさせておいた。
 
読みどおり千葉のスタートは3-4-2-1でミラーゲームとなった。前節はコンディション不良でメンバーを外れていたラリベイが1トップで復帰し、シャドーには町田也真人と茶島雄介のテクニカルな二人。好調の熊谷アンドリューとダブルボランチを組んだのは佐藤勇人だった。
 
大分の先発メンバーは前節と同じ。立ち上がりは正攻法の真っ向勝負に出た。千葉のハイプレス・ハイラインという特徴を逆手に取り、後方でボールを動かして相手を出来るだけ引きつけることで、その背後に生まれるスペースを狙う。だが、千葉のハイプレスの勢いはJ2でも屈指レベル。パワーでもスピードでも上回るその圧に次第に押され、ボール回しに危なっかしさが漂いはじめる。前回のホームゲームと異なり、芝が濡れていなかったことも、プレーしづらさに繋がった。
 
相手を引きつけるだけ引きつけようとするボール回しに、あわや引っ掛けられるのではないかと、スタンドからはしばしば悲鳴が上がった。実際に9分、その形から茶島に、またその直後には熊谷にシュートを打たれたが、いずれも枠外に飛んで命拾い。
 
相手のミスを逃さなかったのは、押されていた大分のほうだった。19分、ロドリゲスのキックミスによりこぼれたボールを奪った林容平が流し込んで先制する。千葉はその後もあったチャンスをことごとくものに出来ないまま、試合は1-0で折り返した。
 

タイミングを見誤らず“戦術・伊佐”へとシフト

 
1点を追う千葉は後半頭に佐藤と杉山弾斗を下げて為田大貴と矢田旭を入れ、システムを4-3-3へと変更。前線にかける人数を増やし、技術の高さを生かして大分を押し込んでいく。大分は守備に追われ、ほぼ防戦一方になっていた。
 
千葉へと傾く流れの中で、58分には千葉にビッグチャンス。ラリベイからのバックパスをクリアしようとペナルティーエリアを飛び出した高木駿をかわして、町田が無人のゴールへとシュート。万事休すかと思われたが、クロスバーがこの大ピンチを救ってくれた。千葉にとってはここで同点に出来なかったことが、大分にとっては追いつかれなかったことが、試合の分水嶺となる。
 
相手が前がかりになりつつ、前半に走らされた疲労も見えはじめた60分過ぎ、片野坂監督はそのタイミングを見誤らなかった。林と馬場賢治を清本拓己と伊佐耕平にスイッチすると、二人の爆発的な勢いが一気に形成を逆転させた。
 
伊佐が投入されたら何をすればいいかという暗黙の了解が、チームには育っている。そのスピードとダイナミックなプレースタイルを存分に生かす、まさに“戦術・伊佐”だ。日頃から「一緒に出たら起爆剤になれるね」と話していたというドリブラー清本がそれにブーストをかけ、後藤優介と絡んで3人のカウンターが発動した。
 
効果はてきめんだった。64分、抜け出した伊佐のマイナスのクロスに、中央のスペースへと攻め上がった星雄次が合わせて2点目。続く67分には星の仕掛けからのクロスに後藤がゴール前で潰れ、最後は清本が3点目を奪う。その後もカウンターからいくつかチャンスを作ったが、枠をとらえきれずになかなか4点目が取れない。
 
74分、千葉は茶島を下げて指宿洋史を送り込み、ラリベイとのツインタワーで前線にパワーをかけてきた。何度かサイドからクロスを入れられたが、大分守備陣もしっかりマークして相手に仕事をさせない。
 
そしてついにトドメの4点目が生まれる。86分に後藤に代わって入った川西翔太が、この時間帯にして光の速さのカウンターで攻め上がってきた松本怜からのパスを受け、ゴール前で鮮やかに切り返して一人で相手を振り切ると、さすが元FWと唸らせる爽快なシュート。調子を落として第5節H水戸戦、第6節A讃岐戦とメンバー外になっていた川西の復活弾に、片野坂監督も両手を挙げて喜びを爆発させた。
 

愚直なまでに続けていくことで得られるものがある

 
相手の精度不足に助けられた部分もあるとはいえ、指揮官が周到に準備してきたプランのひとつが見事にハマった試合運びだった。
 
前半から相手にボールを持たれ、スペースを消して辛抱強く耐えながらも、ボールを奪えば簡単に逃げることなく、しっかりと相手を引きつける姿勢を崩さなかったこと。高木の果敢な飛び出しが危ない場面を作ったりもしたが、それでもその姿勢を貫いたことで、走らされた相手は後半に疲労した。
 
それでこそ伊佐や清本のストロングポイントが生きた。伊佐が前線で時間を作ることで、それまでは守備に追われていた松本と星の両WBや後藤も攻撃に転じることが出来る。前半から辛抱強くウラを突くチャンスを狙い続けた宮阪政樹とともに布陣のバランスを取りながら献身的に守った丸谷拓也。そんな彼らを助けもしながら前線に絡んだ川西の存在感も光った。
 
そして強力な相手に臆せず体をぶつけ続けた鈴木義宜、迷いなく縦パスを潰しに行った刀根亮輔、星の背後をケアしながらドリブルで押し上げもした福森直也と3CBの働きも見事だった。強い気持ちで攻守に戦術を貫いた高木は、課題もありながら良い仕事ぶりだったと言える。
 
昨季序盤も、上福元直人を含めた最終ラインからのビルドアップで悲鳴の聞こえる試合が続いたことを懐かしく思い出す。あれから1シーズンかけて昨季のチームは、余裕を持ってボールを動かせるまでに成長していった。今季は昨季の積み上げがあるぶん、戦術浸透も早い。愚直なまでに続けていくことで得られるものの大きさを、片野坂監督は教えてくれる。
 
そして指揮官は試合後に、千葉戦でメンバー外になった選手たちへも感謝の意を述べた。厚い選手層が生きるためには、全員が一丸となって戦うことが不可欠だ。