緻密な相手対策が裏目に出るも、勝ち点1は確保。チームの底上げという収穫も
出方の読めない相手に対策を講じて臨んだが、シーズン序盤の未成熟なチームはその遂行に戸惑いを見せた。前節の大敗から開き直って自分たちのスタイルを見直したという相手に多くの時間帯で上回られたが、苦しみながらも2得点を挙げ、辛くも勝ち点1を積むことが出来た。
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互いの勝利への思惑が交錯した一戦
昨季なかなか勝てなかったホームでなんとしても勝ちたい大分と、開幕戦の大敗からチームを立て直したい山形。それぞれの勝利への思惑が交錯した一戦は、緻密な相手対策を講じたはずの大分がそれに足を取られる展開となった。
前節の水戸戦で0-3と完敗した山形がシステムやメンバーを入れ替えてくることも想定に入れ、片野坂知宏監督は緻密な準備を進めた。4-3-3、4-2-3-1、3-4-2-1と相手の形のさまざまな可能性や個々の戦力の特徴を考え、また自チームの状態も踏まえて、週の立ち上げから計画的にトレーニング。紅白戦でも相応の手応えを得た。
瀬沼優司や小林成豪といったサイドを司る強烈な攻撃陣と、テクニカルな中盤の選手たちに備えて、大分が採用したフォーメーションは4-4-2。守備力に期待してファン・ソンスと那須川将大をSBに配置した。一方の山形も前節からスタメン3人を入れ替えた4-4-2。大分としてはそれも想定内で情報も共有していたのだが、シーズン序盤で未成熟なチームは、まだ十分にオプション戦術を遂行ことが出来ない。その迷いのある様子につけ込むように、山形のほうが勢いづいた。
松本怜のボールを奪いカウンターを仕掛けた山形は、小林がペナルティーエリアに侵入したところを鈴木義宜に倒され、PKを獲得。これをフェリペ・アウベスが沈めて5分、先制点を奪う。
ボールの動かし方を修正しながらチャレンジを続けようとも考えたが、失点したことで指揮官は通常の3-4-2-1へとシステムを変更した。これによりサイドへの伸びやかな展開や、相手の背後を突いた攻撃機会が増える。36分、宮阪政樹の縦パスを中盤で藤本憲明が受け、ヒールで前へ流すと、それを拾って抜け出した後藤優介がGK児玉剛の股を抜くシュートで同点に追いついた。
2度目のビハインドも意地で追いつく
だが、64分、ふたたび山形に突き放される。ゴール前でのフェリペ・アウベスへの鈴木の対応がファウルを取られ、FKを献上。中村駿が直接狙った弾道は、折からの風も受けて壁の外を巻きながらゴール右隅を揺らした。
その直後、片野坂監督は宮阪に代えて川西翔太を投入し、その球際の強さに中盤での守備力と落ち着きを期待した。ほどなく67分、その川西からのフィードを後藤が少し触ってスペースへと送ったところへ走り込んでいた松本が、持ち前のスピードで相手を振り切ってシュート。もう一度同点へと食い下がった。
69分、山形はフェリペ・アウベスを大分キラー・阪野豊史へと交代。72分には大分が足をつらせた丸谷拓也を下げ、小手川宏基をボランチに下げてシャドーには清本拓己を送り込む。山形は74分、スピードとアグレッシブさで左サイドをかき回した小林に代え汰木康也を投入。それぞれの色を出して攻撃色を強めながら、一進一退の攻防が続いた。
主導権を握れない大分の選手たちに疲労の色が濃くなり山形に押し込まれ続ける中、誰を交代させるかと迷いに迷った末に片野坂監督は、83分、最後のカードとして那須川を下げての星雄次を選択し、サイドからの打開を図った。今季初勝利へと勢いを増したい山形は85分、南を下げて新外国籍選手のアルヴァロ・ロドリゲス。ゴールに向かう力を増幅させシュートを放ち続けたが、フィニッシュの精度不足で得点に至らず。大分としては結果的にそれに助けられた形で、試合は2-2のまま終了を迎えた。
前節の山形の大敗が両者の明暗を分けた
「前節は相手の出方を想定してどう戦うかというミーティングをした中で、自分たちに目を向けていなかったのが大きかったので、木山監督も『まず自分たちの良いところを出し、そこから相手を決していこう』とおっしゃっていた。今日はそれが上手く出せ、立ち上がりから良い形で入れて先制できたのが、この1週間で成長できた部分だったと思う」と、試合後に中村が語ったように、山形にはある種の開き直り感があった。
雪を避けて1月中旬から続けてきた長いキャンプが今節で終わり、ようやく地元に帰って練習できる。次節のアウェイ熊本戦を終えれば次がホーム開幕で、このアウェイ連戦期間中にひとつでも白星を挙げたいという強い思いもあり、それが球際の強さや切り替えの早さへと還元されていた印象だ。
大分にとっては、相手の前節の大敗が難しい状況を引き起こした。選手層の厚さ、オプション選択肢の多さが指揮官の迷いの原因にもなったかと思う。この一戦に限って言えば、策に溺れたという言い方も出来る。
ただ、勝ち点1を積み上げることが出来たからこそ言えることだが、3名の戦力が今季初出場を果たしたこと、シーズン中に浸透させておきたいオプションを実戦で使い、そのメリットとデメリットを体感できたことは、今後につなげたい収穫だった。経験豊富な即戦力が揃う今季のチームは、個々の実力差が少なく、どの選手もコンスタントに起用しながら全体の底上げと連係を高めていくことが理想だ。ただ、この試合で頭を悩ませたように、指揮官にとっては非常に難しいマネジメントとなる。それが上手く運べば、シーズン終盤には幅のある戦い方の出来る組織になれるはずだ。
山形との次回対戦は、今季最終節のアウェイ。J1昇格を目標とするチーム同士、どういう状況でそのときを迎えることになるかが楽しみだ。