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試合レポート

引いた相手に苦戦も、清本復活弾から今季初の逆転勝利。劇的な最終節で締めくくる

 

259日ぶりにピッチに帰ってきた男が、流れを切り開いた。最終節にして今季初の逆転勝利。ブロックを作ってゴール前を固める相手を攻めあぐね、内容的には良い試合とは言えなかったが、こういう試合を勝ち切る力が、このチームには育っていた。

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予想以上に守備を固めた相手に手こずる

 
14時キックオフの明治安田J3第32節の結果を受けて、21位のJ2残留が決まった。このことが熊本にどう影響するか。ゲームプランとメンタルの両面の変化が警戒されたが、熊本のロッカールームでは、池谷友良監督が選手たちにこう伝えていた。
 
「その辺に左右されず、自分たちの力で最高で19位までが可能なので、それを目指してやろう。自分たちで価値を上げよう。J3の結果で云々ということではなく、自分たちの力で勝ち点3を目指して戦おう」
 
残留争いのプレッシャーから解き放たれた熊本だったが、アグレッシブに前から奪いに来ることはなく、これまでどおり5-4-1のブロックで中央を固めた。大分はそんな相手を前に攻めあぐねる。ボールを動かしながら隙を狙って縦パスを入れるが、予測で先回る相手に球際激しくインターセプトされ、縦に速く攻め返された。25分には片山奨典のパスに抜け出した安柄俊がつなぎ、嶋田慎太郎にシュートを放たれたが、わずかに右にそれて命拾いする。
 
ブラインドサイドを狙って相手と駆け引きする三平和司が何度かウラに抜け出して起点を作ったが、中央で体を張る屈強な熊本の守備陣に、チャンスはことごとく潰される。38分、三平のクロスに詰めた小手川宏基のシュートは、GK佐藤昭大に抑えられた。
 

259日ぶりに帰ってきた清本、復活の同点弾

 
3-4-2-1同士で膠着するミラーゲーム。片野坂知宏監督は我慢しながら、相手がどう動いてくるかを待った。熊本の動きは意外に早く、後半頭から嶋田に代えて菅沼実を投入する。これが奏功したのか、65分、片山のクロスを安柄俊が落とし、それを拾った菅沼が切り返しでファン・ソンスを振り切ってシュート。ボールはネットに突き刺さり、熊本が先制する。
 
これでは余計に相手が守備を固めて難しくなる。指揮官は72分、ファン・ソンスをシキーニョへ、三平を伊佐耕平へと二枚替えしてシステムを4-4-2に変更。リスクを負いながらミスマッチを作って攻めに出た。
 
シキーニョの個人技もあり圧を増して徐々に相手を押し下げる中、85分には岸田翔平に代えて清本拓己。松本怜を右SBに下げて清本を右SHに配置した。8ヶ月ぶりにピッチに立った清本が右サイドで松本とボールを保持し、中央へ出してから中へと絞っていったとき、その一瞬は訪れた。
 
ペナルティーアークの外でボールを持った川西翔太は、清本と目が合うと前線へと浮き球を送った。絶妙なパスに絶妙なタイミングで清本が飛び込む。とっさに反応したのは、怪我が癒えた右足だった。飛び蹴りのような、アクロバティックなアウトサイドでのジャンピングボレー。とても8ヶ月ぶりの復帰戦とは思えないアグレッシブなシュートを出場1分後にゴールに叩き込み、清本はチームに歓喜の渦を巻き起こした。
 

後藤のPKで逆転し、パワープレーをしのいで勝ち切る

 
1点リードした時点で、さらに守る意識を強めていた熊本だが、追いつかれたことで再び攻めに出る。87分、三鬼海に代えて巻誠一郎。いかなるときもチームを牽引する精神的支柱を投入したが、清本の復活弾の興奮も冷めやらぬ大分の勢いは止まらない。
 
87分、伊佐とパス交換しながらペナルティーエリアに侵入した後藤優介が相手に倒され、PKを獲得。後藤自らがこれを蹴り、相手GKに左足で触られながらも、ど真ん中に沈める。チーム得点王の今季17点目で、大分が逆転に成功した。
 
ベンチメンバーも飛び出してのゆりかごダンス。11月2日に第1子が生まれた黒木恭平を祝福したい思いはありながら、これまでの試合では、流れの中で余裕がなかった。試合前日に契約非更改が発表された黒木のためにと、全員で、全力で、体を揺らした。
 
意地を見せたい熊本が攻勢を強める中、指揮官は伊佐にCB的な役割を託す。長身でターゲットとなる巻をマンマークさせ、空中戦で競り合わせた。CK、FKと相手のチャンスが続き、GKも上がってのパワープレーの中、伊佐は鈴木義宜や福森直也にまじって見事にこのミッションを完遂。それ以上の失点を許さず、今季初の逆転勝利をつかんだ。劇的な最終節だった。
 

戦術とはまた違った意味での完成形を見せた

 
1年間コツコツと積み上げてきたチームの完成度を披露し、その上で勝利の喜びを分かち合いたい。そんな思いで臨んだ2017シーズンの最終戦。相手の戦術との兼ね合いもあって、今季築いてきた“片野坂スタイル”を見せることは出来なかったが、それとはまた違った意味での完成形を、このチームは見せてくれた。
 
主将として2年間、チームを率いてきた山岸智。短い出場時間で3得点を記録しラッキーボーイとなった大津耀誠。パパになったばかりの黒木。3選手の契約非更改が前日に発表された中、複雑な思いを抱えながらベンチに入った清本は、「選ばれた以上はチームのためにやるしかない」と決意していた。
 
夏を過ぎた頃、ファン・ソンスが「このチームでは、公式戦メンバーに入れなくても、片さんが選んだメンバーであれば、自分に足りないものがあるからだと素直に納得してまた頑張れる」と話したことがある。最終戦後のセレモニーで引退スピーチをした山口貴弘がそうだったように、サブ組はサブ組同士、励ましあいながら日々を積み重ねてきた。
 
「オフの日にまでこんなに一緒にゴルフに行ったり釣りに出かけたりするチームはなかなかないよ」と、山岸は笑う。決してグイグイ引っ張っていく兄貴分ではないけれど、実に細やかに雰囲気作りに貢献してきたキャプテンの素晴らしい仕事として、一体感を高めながら、チームは中断期間のないハードな今季J2を最後まで走り抜いた。
 
試合翌日、長いミーティングを最後に解散。昇格も降格もなく、ひたすら堅実に培ってきたシーズンだったが、その記録と記憶は確かに、大分トリニータの歴史に刻まれていく。