相手の変化への対応に手間取り一時は逆転を許すも、川西が起死回生の同点弾
パスワークを封じてカウンターで2点先行した狙いどおりの展開もつかの間、後半は予想外の相手の変化に後手を踏まされる。まさかの18分間で3失点。万事休すかと思われた91分、川西翔太の同点弾で、チームは辛くも勝ち点1をもぎ取った。
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前回対戦同様、狙いどおりに運んだ前半
まずもってコンディションの懸念されたピッチが美しく整備され、手に汗握る試合が繰り広げられたことが喜ばしい一戦だった。試合後会見の冒頭に片野坂知宏監督は、そのことに対する謝辞を述べた。ここからシーズン終盤までホームゲームを多く残すこともあり、恵まれた環境で戦いに臨めることは何よりのアドバンテージだ。
前日に行われた他会場の試合結果を受け、暫定9位、勝てばJ1昇格プレーオフ圏内の6位へと食い込める。そんな状況で迎える相手は、大木武監督仕込みのきめ細やかでスピーディーなパスワークを武器とする岐阜。前回対戦の第12節、4-4-2のブロックでそのパスワークを封じ、2-1で勝利した相手だ。
その後の岐阜は勝てない時期が続き、微修正は施しながらも、結果が出なくともひたむきにスタイルを貫いてきた。今回もそのままの正攻法。こちらも前回対戦と同様の対策で臨んだ。
案の定、ボールは岐阜が握った。1トップに入った風間宏矢が中盤まで下りて組み立てに参加し、さらなる流動性を増すなどして前回対戦時よりも戦術が成熟している様子を見せたが、大分の守備も集中を切らさず、フィニッシュまでは至らせない。ボールを奪えばテンポ良くワンタッチで前へと運び、6分、16分とビッグチャンスを演出。だが、最後は相手守護神ビクトルのファインセーブに阻まれる。
23分、相手のミスを突いて後藤優介が持ち上がり、ゴール前に駆け上がってきた三平和司にエリア内からクロス。ニアでクリアしようとした田森大己のオウンゴールを誘って先制に成功する。さらに43分には上福元直人のフィードを三平がつなぎ、後藤がネットを揺らして追加点。狙いどおりの形から2点リードして折り返した。
想定外の岐阜の変化に対応が後手に
とは言っても、前半も盤石な試合運びとは言えなかった。次第に相手のプレスが強まると、タッチ数が増え、立ち上がりのようにリズミカルに運べなくなった。また、田中パウロ淳一と大本祐槻の岐阜のサイドに攻略され、逆サイドの松本怜に比べ山岸智は最終ラインに吸収されている状態が長くなっていた。
これをハーフタイムに修正し、それでもダメなら交代をと準備して臨んだ後半。岐阜は頭から田中を下げ青木翼を入れて、3バックへと変更してきた。大分にとっては想定外な修正だ。それもそのはず、大木監督も準備していたプランというわけではなく、前半の状況を見てその場で繰り出した次善策。大分の2トップに対する最終ラインの守備を安定させつつ、なおも前線に人数をかける狙いだった。
もともと流動的なスタイルの岐阜がどう修正したのかを見定めるのが、まず一仕事だった。サイドを幾度となく突破する大本に対応するために、片野坂監督は57分、山岸を下げて伊佐耕平を入れ、3-4-2-1へと布陣変更。5-4のブロックを敷く。
岐阜はさらに66分、田森に代えて難波宏明を投入。プレースタイルの明確な難波の投入で、岐阜の攻撃の質が明らかに変わった。前線は流動的なまま、パスレンジが長くなり、一発を狙うウラへのボールが増える。
そこで片野坂監督は三平に代えてファン・ソンスを入れ、トリプルボランチで守備ブロックの強度を増した。だが、「わたしの判断で若干受けに回ってしまった」と、指揮官は自らの采配を責める。パスの出どころに寄せきれなくなったことで、逆に相手を勢いづかせた。
70分、庄司悦大のフィードを風間が頭で押し込んで1点。79分には大本のクロスを難波に決められて追いつかれる。88分には風間の右CKから阿部正紀に3点目を許し、あっという間に逆転されてしまう。
川西のアディショナルタイム弾に救われる
同点になった時点で、疲労の見える川西を下げ姫野宥弥を投入しようとしていた指揮官は、逆転されたことでそのプランを取りやめ、川西を残して竹内彬をシキーニョに代えた。松本怜、岸田翔平、鈴木義宜、福森直也、シキーニョの5バックに鈴木惇とファン・ソンスの2ボランチと川西・後藤の2シャドー、1トップ伊佐で、点を取りに出る。アディショナルタイムは4分。
追いつくのは意外に早かった。鈴木惇から、左サイドに張っていた川西への矢のような長い展開。それを受けた川西は自ら持ち込み、決死のシュート。弾道はこの日何度もファインセーブで大分の得点を防いできたビクトルの指先に触れながら、ゴール右隅ギリギリに転がり込んだ。川西にとっては2戦連続弾だ。
こうなればあとはもう攻めるしかない。サイドを起点にした分厚い攻撃で岐阜ゴールに迫った。が、ビクトルの素早い反応に阻まれてゴールはそれきり割れずにタイムアップ。なんとしても勝ちたい試合を辛くも引き分けた大分と、一度は逆転しながら追いつかれた岐阜、打ち合いの結末は両者痛み分けとなった。
この一戦のうちに多くの課題が見えた
数字としては悔しい結果だが、指揮官も選手たちも、勝ち点1を取れたことを前向きにとらえたいと口を揃えた。実際、負けなくて良かったと言えるほど難しい相手だったし、これまで頑ななまでにショートパスをつなぐスタイルにこだわってきた岐阜の戦術変更には、想定外で驚かされた。勝ち点1が拾えたことで、6位との勝ち点差も1と、まだまだ上を狙える位置にいる。
だが、同時に片野坂監督は「本当に考えさせられる難しいゲームだった」と振り返る。いかなる状況にも柔軟に対応できる力を養うことをチームに求める指揮官には、この一戦での相手の修正への対応に関して、多くの課題が見えたのだろう。
上のステージで通用するチームになるためには、まだまだ地力を増強しなくてはならないということだ。臨機応変に対応できる判断力と戦術の引き出し、交代選手を含めた戦力の底上げ。
今季、残すところ6試合で、さらにチームの成熟度を上げていきたい。そのためにもプレーオフ参戦を目指す力は、大きな原動力となるはずだ。