TORITENトリテン

試合レポート

積み上げてきたものを表現してミラーゲームを制圧。組織で攻守、全員が躍動

 

真っ向勝負でぶつかり合ったミラーゲーム。立ち上がりから強気で先手を取り、攻守に狙いどおりの形で試合を運ぶと、分岐点ごとに流れを引き寄せた。結果、3-0の完勝。いつもロースコアでしのぎあってきた岡山に、ついにアウェイで初勝利を遂げた。

試合情報はこちら

迷った末に奇策なしの正攻法を選択

 
実は片野坂知宏監督は試合前、対岡山戦術として、異なるシステムで臨むプランも選択肢に入れていた。だが、最終的に選んだのは奇策なしの正攻法。「トライしてこれまで積み上げてきたものの完成度を見たい」と話していたとおりの真っ向勝負を選んだ。
 
一方の岡山はボランチに渡邊一仁を入れて塚川孝輝と組ませ、関戸健二を一列上げたシャドーで起用。シャドーの相方には大竹洋平を選び、警戒していた伊藤大介はベンチスタートとなった。いつもよりも幾分、守備の色合いの強い布陣かと思われる。
 
互いに、やや様子を見るように入った立ち上がり。ミラーゲームらしくパスが引っかかる場面が何度か見られ、今節も硬い試合になるかと思われたが、まもなく大分がペースを握った。三平和司と後藤優介の2シャドーが岡山の守備陣を引きつけてスペースを作り、そこで1トップの林容平がボールを収め起点となった。また、岡山の1トップ赤嶺真吾には、大分の守備陣がボールを収めさせないことで、攻守にわたり先手を取ったかたちだ。
 

主導権を握ることで相手を引き出す狙いどおりの展開

 
17分、松本怜のクロスを林が落とし三平がオーバーヘッドシュート。23分には鈴木惇の右CKを三平が頭ですらし鈴木義宜が狙う。いずれも相手守護神・一森純の好セーブに阻まれたが、大分が主導権を握ってボールを動かしながら何度もチャンスを作ったことで、岡山のプレスが次第に激しくなり、スペースが生まれた。
 
35分、相手のロングフィードを福森直也が頭で落としたところを川西翔太が拾い、ハーフウェーライン付近にいた三平に送ると、三平はこれをダイレクトで縦に入れる。それを林が受け、駆け上がってきた川西に出すと、川西は相手に囲まれながら間隙を突いてシュート。相手にかすってコースがややずれたが、ゴール右隅ギリギリに転がり込んで先制した。川西にとっては今季初ゴールだ。
 
プレーオフ圏進出のために勝たなくてはならない岡山は、38分に久木田紳吾を下げてオルシーニを投入。3-4-2-1のシステムはそのまま、塚川を3バックの右に、関戸をボランチに、赤嶺をシャドーにそれぞれ下げ、アルゼンチン出身の187cmを頂点に据えて、攻撃のパワーを増強した。
 
いきなりのオルシーニ効果で、岡山のセットプレーが続く。その後もサイドに流れて起点となり逆サイドの赤嶺にクロスを送ったり、自身がウラのスペースへと斜めに走ったりすることで狙いどおりチャンスを作ったが、岡山にしては大味な攻撃になったことも否めない。
 
守備陣が体を張り、全体の距離感良くセカンドボールを拾う大分にとっては、逆に守りやすくなったようにも見えた。とはいえ、接触プレーで額を切り、またもテーピング姿で戦い続けた竹内彬の姿を見れば、そうそう楽でもなかったことがうかがえるのだが。
 

大きな分岐点となったキャプテンのファインプレー

 
それでも次の1点が岡山に入っていれば、ゲームはどちらに転ぶかわからなかった。その流れを大分へと決定づける分岐点となったのが、キャプテン山岸智のファインプレーだった。
 
57分、ウラに抜け出したオルシーニが起点となってエリア内に押し込まれた場面。ボールを掻き出すことに集中した大分守備陣がうっかりフリーにしてしまった赤嶺にシュートを打たれる。上福元直人もボールを抑えに飛び出してガラ空きになっていたゴール前に、きちんとカバーに入っていたのが山岸。赤嶺のシュートはキャプテンのブロックに、間一髪でクリアされた。
 
60分、次第にオープンになる展開の中、指揮官は林を伊佐耕平へとスイッチ。64分、鈴木義のフィードから後藤が伊佐とのワンツーで右ブラインドサイドに抜け出しマイナス気味のクロスを送ると、後ろから走りこんできた三平がシュート。これはまたも一森に阻まれるが、ペナルティーアークあたりまで大きく跳ねたボールを、鈴木惇がダイレクトボレーで狙った。
 
ボールはクロスバーに当たって真下に落ちたが、ラインを割っていないと判断した伊佐が競り、三平が押し込んだ。なおも跳ね返ってきたボールを伊佐がしつこく蹴り込み、追加点が奪えたことはわかったが、公式記録には「確認中」の文字。
 
結局、鈴木惇のミドルがラインを割っていたことが判明したのだが、ゴールを奪おうと襲いかかるストライカーたちの姿は実に迫力満点だった。
 

最後は5-3-2のブロックで守りきり堂々の完勝

 
守備と攻撃それぞれのファインプレーで流れを引き寄せた大分に対し、岡山は66分に渡邊に代えて石毛秀樹、その2分後には三村真に代えてパク・ヒョンジンと、さらに攻撃のカードを切る。
 
大分は69分に、疲労した山岸をシキーニョに交代。攻め急ぐ岡山の背後を取りながら、71分、試合を決定づける3点目を挙げた。上福元のパスを鈴木義が縦に送り、右サイドの松本を経由。攻め上がった三平が相手を存分に引きつけてから、再び松本へのノールックパス。左右から差し出された相手の脚を抜いて、開幕戦以来の松本の今季2点目がゴールへと流し込まれた。
 
片野坂監督は三平を下げて練習試合から好調だったというファン・ソンスをアンカーに投入。5-3-2のブロックを敷いて岡山のシャドーの動きを抑えると、危なげなくその後を乗り切った。
 
正攻法でミラーゲームに挑み、内容的にも圧倒して、堂々の3得点無失点。これまでに積み上げてきたものが遺憾なく発揮され、「これぞ片野坂サッカー」と呼べる一戦となった。
 
試合後会見では指揮官の口からついに公式の場で「プレーオフ」という言葉がこぼれた。上位との直接対決を含む残り7試合に向けて、「そう簡単ではないが、自分たちの力でビッグチャレンジの機会をつかみ取れる」と選手たちに話したという。
 
これまでは頑ななまでに堅実に「まずは残留。次は勝ち点56」と言い続けてきた片野坂監督を、戦い続けた選手たちが動かした、と思った。