後半の修正が奏功し鈴木惇の2戦連続弾で4試合ぶり白星。目標の勝ち点45を達成
26日、クラブ史上初の維新百年記念公園陸上競技場で臨んだ明治安田J2第30節A山口戦。ビジターゴール裏チケットが完売し、メインやバックスタンドにも駆けつけたサポーターが後押しする中、チームは苦しい戦況を耐えながら打ち合いを制し、4試合ぶりの勝利を遂げた。
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準備段階から難しかった一戦
3連戦の疲労も出たか、攻守に奮闘してきた川西翔太がコンディション不良で別メニューに。離脱こそしなかったが、小手川宏基も万全ではなかった。さらに試合前々日のクロス対応の練習中には竹内彬が額を8針縫う怪我をするアクシデントも発生した。
加えて、山口の出方も予想しづらい。これまでも試合ごとにシステムやメンバーを変えてきたマジョール監督が、前節の大敗を受けてどう修正してくるか。
すでに準備段階から難しかった中で、片野坂知宏監督は、小手川をボランチに配置して鈴木惇と組ませ、三平和司をシャドーに下げて、頂点には13試合ぶりの先発となった伊佐耕平を起用した。ベンチに前田凌佑と姫野宥弥を控えさせたのは、山口の中盤のハイクオリティーなパスワークに備え、3ボランチに変更することを想定してのリスクマネジメントだった。
伊佐の先制点により早々にリードしたが…
立ち上がりは、後ろからパスをつないでビルドアップしようとする山口のミスを突き、高い位置でインターセプトしてショートカウンターを繰り出すチャンスが多く見られた。
6月に就任したマジョール監督の下、いまだに新たなスタイルが確立していない感のある山口は、上野展裕前監督の下で築き上げたパスサッカーへの未練も感じさせつつ、積み上げたものを新体制での戦術にどう生かしていくかを模索しているようにも見えた。
その隙を突くように11分、相手のクリアミスに反応した後藤優介がGKをかわしてシュートを放つが、ポストに阻まれる。だが、17分、鈴木惇の浮き球パスに抜け出した伊佐耕平が、ペナルティーエリア右の角度のないところからGKの股間を抜き、先制点を奪った。「落ち着く時間帯までは蹴ってもいい。伊佐のスピードを生かそう」と話していた指揮官の狙いがハマった。
だが、山口がレオナルド・ラモスにボールを集める戦術へと変更すると、流れが変わる。大分の最終ラインはレオナルド・ラモスと岸田和人の2トップに引っ張られ、ボランチは山口のトップ下・小塚和季の流動的で頭脳的なプレーに手を焼くようになった。重心が後ろにかかり、相手のダブルボランチに自由な配球を許すことで、両サイドの優位性も明け渡してしまう。
24分、小塚の右CKに飛び込んだ福元洋平のヘディングによる恩返し同点弾で試合を振り出しに戻すと、山口の勢いはさらに増す。34分には福森直也のバックパスをさらった岸田和が自らエリア内まで持ち込んだが、これはトラップがわずかに大きくなった一瞬を見逃さず上福元直人が抑え込んで事なきを得た。
三平の同点弾で試合の流れを引き戻す
レオナルド・ラモスを軸に、これまでに培ったパスサッカーが機能するようになった山口は、54分、岸田和の空けたスペースに小塚の送ったスルーパスを拾ったレオナルド・ラモスが受け、落ち着いて切り返しゴールへと流し込む。
逆転を許した大分は後手に回ってバタつき、まずい失い方からカウンターを受けた際の戻りも遅い。降格圏脱出のために負けの許されない山口に畳み掛けるように攻め立てられ、岸田和にもフリーでシュートを放たれるが、これはポストを叩き、大分としては命拾い。
そのバタついた状態を落ち着けたのが、58分、三平の同点弾だった。右サイドを起点に相手を押し込んだ状態から、後藤のシュートが相手にブロックされたこぼれ球を正面で拾い、ネットに突き刺して2-2。突き放されることなく早い時間帯に追いつけたことが、チームを窮状から脱出させた。
ハーフタイムの修正として、相手のボランチにプレッシャーをかけること、勇気を持って前に出ようと意識したことで、いくぶん形勢も挽回できていた。福森と鈴木義宜が高い位置から縦パスを供給することで相手を押し込めるようになり、鈴木惇のサイドへの展開も次第に増えた。
戦う気持ちが結実した鈴木惇の2戦連続弾
65分、指揮官は三平を下げて前田凌佑を投入し、3ボランチ+伊佐と後藤の2トップへとシステムを変更する。山口の流動的なパスワークに対応するため、どのタイミングで中盤を厚くするかと考えていたが、前線3枚の様子なども見ながら、出来るかぎり引っ張ったようだ。
山口も75分に岸田和を加藤大樹、84分に佐藤健太郎を三幸秀稔とカードを切り、カウンターの鋭さを増して追加点を狙う。大分はブロックを敷いてこれに備え、3枚にした中盤の支配率を高めた。
一進一退の攻防の中で、87分、決勝点をもぎ取ったのは大分だった。鈴木惇の大きな展開を後藤が頭で落とし、85分に小手川に代わって入っていた姫野宥弥が拾って縦パスを入れると、相手を背負って受けた伊佐は、右サイドを駆け上がってきた松本怜へ。松本のワンタッチクロスは高く浮いたが、ファーに飛び込んできた鈴木惇が、見事な左足ダイレクトボレーでネットを揺らした。
緻密な戦術ゆえに考えすぎになりがちだったここ数試合、ずっと「戦術以前に球際や切り替えで負けないこと」と繰り返し続けてきた鈴木惇が、その言葉どおりに、試合終盤に駆け上がって奪った値千金弾だった。
相手が決定機を外したことにも助けられ、守備面での課題も多く残されたが、4試合ぶりの勝利には指揮官もほっとした表情。残留ラインとした勝ち点45の目標もこれで達成し、チームはさらに戦術に磨きをかける。
余談。試合後のミックスゾーンでは、岸田翔平と和人が、互いのユニフォームを交換していた。その後、練習着も交換して逆のバスに乗り込むようなことはなく、岸田兄弟と福元洋平がアカデミー時代の恩師・吉坂圭介GKコーチと談笑する場面も見られた。