なりふり構わず追撃し、劇的アディショナルタイム弾で執念の+1
16日に行われた明治安田J2第23節A愛媛戦。先制し、逆転され、95分に追いつく劇的な展開で、チームは辛くも勝ち点1をつかんだ。
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混戦のリーグで大きな勝ち点1を積む
前回対戦も含め、今季の愛媛は終了間際の失点で勝ち点を取りこぼした試合が多い。そこに一縷の望みを託しながら終盤の戦況を見守った。かけ続ける圧力と跳ね返す力の均衡を破らなくては、勝ち点を挙げることは出来ない。パワープレーだろうが何だろうが構わなかった。
95分、途中出場で献身的に走り回った吉平翼のアーリークロスを相手GKがキャッチミス。そのこぼれ球を、終始冷静に立ち回っていた小手川宏基が落とすと、こちらも途中出場の前田凌佑がシュート。GK不在のゴールマウスには2枚のDFがカバーに入っていたが、シュートの勢いが勝った。GKの手に当たり、さらにDFに当たったボールはゴールの中へと跳ね返って劇的同点弾となる。リスタート直後に、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
先制しながら、迷いなく攻める相手に逆転を許した。守勢に回ることの多かったゲームで、運にも恵まれてのドロー。片野坂知宏監督は試合後、内容的に物足りないという表情を隠し切れなかったが、混戦のリーグにおいてアウェイで得た勝ち点1は、実に大きい。
切り替え早くめまぐるしい展開に
立ち上がりから、さすがの大分キラー・河原和寿が躍動した。わずか半年間在籍した古巣相手に猛威を振るうのはそろそろ勘弁してほしいのだが、いきなり8分、不意を突くミドルシュートでゴールを脅かす。上福元直人がさわってクロスバーに弾かれ命拾いしたが、ボールを持てば何をするかわからない河原と、前に向いてアグレッシブに仕掛ける近藤貴司の2シャドーの勢いに牽引されるように、前線に人数をかけてくる愛媛の攻撃にさらされた。
ともに3-4-2-1のミラーゲームながら、ビルドアップ時には互いにミスマッチを作るため、スペースを使って攻め合う場面が多くなる。鋭いカウンターでまっしぐらにゴールを目指す愛媛の勢いをしのぎつつ、大分もボールを動かしながらじっくりと相手を押し込んでチャンスを作った。
攻守の切り替え早くめまぐるしい展開の中、ともに決定機を作り、エリア内で混戦になる場面もそれぞれに何度か作りながら、守備陣に阻まれたりわずかに精度を欠いたり。逆に一瞬の集中を欠けば失点しそうな展開でもあり、一刻も目が離せない。
そんな26分、攻め合いに意識が向いていたピッチで意表を突くように、川西翔太が相手DFラインのウラへとロングフィードを送った。それを相手のギャップで受けたのは大津耀誠。左ブラインドサイドでの駆け引きから正確なトラップでボールを収めると、落ち着いてゴールへと流し込んで先制した。
逆転されて2枚替えを敢行
「奪ったら前へ」という間瀬秀一監督と、「奪ったら逆サイドを見よう」という片野坂監督。それぞれのスタイルを象徴するようなハーフタイムの指示を受け、後半に臨んだ両軍。
52分に自陣で浦田延尚にパスをカットされ、それを拾って持ち込んだ河原にシュートを決められ追いつかれる。勢いに乗った愛媛が攻勢を強める中、片野坂監督が59分に大津を伊佐耕平に代えると、60分には間瀬監督も丹羽詩温を有田光希へと、どちらも1トップ替え。
ボールの収まりが良くなり相手を押し込むことが増えた大分は、川西の縦パスや鈴木惇の展開を織り交ぜながら愛媛を押し込むが、決定機をなかなかものに出来ず。
すると70分、河原のスルーパスをクリアしたこぼれ球が有田の足元に収まり、ループシュートで愛媛が逆転。勝利を引き寄せようと79分、愛媛は4日前の天皇杯で120分フル出場した近藤を下げて白井康介を右WBに入れ、小暮大器を一列上げた。
痛恨の2点目を献上して追いつきたい片野坂監督は、80分に2枚替え。川西に代えて吉平、三平に代えて前田。吉平をシャドーに、前田をボランチに据えた。試合後に明かしたところによると、どの選手を下げるかと、疲労度の見きわめにはだいぶ頭を悩ませたそうだが、2人がピッチに入ったことで、また新たなチャンスが生まれはじめる。
なりふり構わず攻めた執念が運を呼び込む
84分には吉平のクロスを相手がクリアミスしたところを小手川が拾って折り返す。ゴール前で伊佐が受けるが枠には打てず、相手にかき出される。86分には松本怜の落としから福森直也がクロスを送り、ファーで岸田翔平がヘディングシュートも枠を捉え切れず。
ゴール前にどんどんボールを送り込んでくる大分の猛追から逃げ切ろうと、87分、間瀬監督は田中裕人を下げて深谷友基。かつて大分でタイトルを獲った経験豊富な闘将を真ん中に据え、林堂を右にスライドして守備の強度を上げた。
だが、5分のアディショナルタイムは、愛媛が防戦一方で逃げ切るには長すぎた。なりふり構わず攻め続ける大分の執念が、勝ち点1をもぎ取ったと言える。
「全然きれいなゴールじゃなかったけど、チーム全員の気持ちがこもったゴールだった」と、前田はそのときを振り返った。
連戦中にチーム得点王・後藤優介が出場停止になるというピンチに、代わって出場した大津が今季初出場初得点という結果を出したとともに、これまで出場機会の少なかった前田や吉平が途中出場で得点に絡んだことも大きい。彼らの仕事も指揮官の采配も見事だが、周りの選手たちがそれを支えたことによる結果でもあった。
たとえ泥臭くてもあきらめずに戦って勝ち得たものは、チームの結束力を高め、運までも呼び込む。相手の勢いに押され、戦術・技術的な課題も見えた試合だったが、この激闘の収穫はそれ以外の、目に見えない部分にもあるように感じられた。