つねに先行する展開で狙いがハマり4得点。チームの底上げも進んで収穫大
21日、前日から降り続いた大雨は試合前には上がった。チームは第97回天皇杯2回戦・町田戦に、直前の明治安田J2第19節H讃岐戦から先発10人を入れ替えたメンバーで臨み、戦術の狙いをハメて4-2で勝利。3回戦へと駒を進めた。
試合情報はこちら
経験値の高いメンバーがチームをリードした
今季ここまでリーグ戦で出場機会に恵まれなかったメンバーが、この試合でスタメンに名を連ねた。今後の公式戦に出場するためのアピールチャンスでもある。モチベーションは自ずから高まった。
とは言っても練習試合とは雰囲気も重みも違う。試合の立ち上がりはやはり試合勘が戻らないのか、おぼつかないプレーも散見された。町田のスタメンには、経験値が高く、今季もある程度コンスタントに出場を重ねている顔ぶれが並ぶ。連係面でも相手のほうが上回り、押される展開が続いた。
そんなチームを、伊佐耕平、國分伸太郎、黒木恭平ら、しばしばリーグ戦に出場していたメンバーがリードした。「普段出場していないメンバーで戦うということで、周りの若手が自由にプレーできるように考えながら試合に臨んだ」と伊佐。押し込まれながらも経験豊富な山口貴弘が守備を統率し、雨でスリッピーなピッチやボールに苦心しながら修行智仁がゴールを守った。
大分がボールを持つと町田は高い位置でブロックを作り、スペースを消した。リーグ戦と同じく、ボランチの1枚が最終ラインに落ちてボールを動かしながら攻撃チャンスを狙う。左右に揺さぶりをかけながらサイドからクロスを入れる狙いも、リーグ戦の対戦時と同じだ。右の國分、左の黒木がボールを持つと、攻撃のスイッチが入った。
不運に屈することなく追加点を奪う
スコアは早々に動く。16分、球際での戦いからボールを奪った國分が間髪入れずに伊佐へとスルーパスを送り、伊佐がスピードに乗ってこれを運ぶ。相手DFを引きつけるだけ引きつけながらゴール前まで走ったとき、少し遅れて走り込んできた坂井大将が伊佐を呼んだ。
正確な横パスはフリーの坂井大に渡り、その右足で確実にゴールへと押し込まれる。プロ初出場の2014年の天皇杯2回戦・ヴェルスパ大分戦で決めた、自ら得たPKによる初ゴールに続くプロ2得点目。生え抜きの先制点に、チームは沸いた。
先制された町田はアグレッシブさを増す。そのためスペースが生まれ、中盤や最終ラインからサイドチェンジが有効になった。ここからリズムが生まれはじめるが、相手もこちらの精度不足を見逃さない。パスのずれやトラップミスからボールを奪い、勢いをもって攻め返してきた。37分、吉田眞紀人が放ったシュートは修行の手をかすめポストに弾かれたが、その跳ね返りが修行の背に当たってゴールに転がり込む。
だが、チームはその不運に屈しなかった。5分後、CKから混戦となり、伊佐がこぼれ球を蹴り込んで追加点。ふたたびリードを奪い、ゲームを折り返した。
采配合戦も含めた迫真の攻防
52分、町田は怪我からの復帰戦だった土岐田洸平に代えて松本怜大を左SBに配置し、左サイドの攻勢を増す。その力関係を優位に引き寄せるため、片野坂知宏監督は65分、吉平翼を下げて國分をシャドーに上げ、右WBに松本怜を送り込んだ。松本怜対松本怜大。
試合中継があれば実況泣かせのマッチアップだが、早速、大分の方の松本の勢いが勝った。71分、姫野宥弥が中盤で相手をつつき、前田凌佑との協力体制で奪ったボールを右サイドに展開すると、松本が持ち前の爆速で右サイドを駆け上がり、スピードに乗ったままクロスを送る。ファーに走り込んできた伊佐が、こちらもその勢いのまま右太腿で押し込んで3点目を奪った。見事な「腿ボレー」(命名:伊佐)だった。
町田も69分に遠藤純輝を重松健太郎に代えて攻勢を保つ。2点ビハインドとなった2分後には、スローインから重松がつなぎ、左サイドで受けた戸高弘貴がすかさず狙った。プレッシャーに寄せる間もなく打たれたシュートはネットの右隅に突き刺さる。見事なゴラッソでまたも1点差に詰め寄られた。
なんとしても追いつきたい町田はさらに78分、奥山政幸を下げて吉濱遼平を投入し、サイドから攻略を試みる。それに対応する形で大分は82分、黒木に代えて岸田翔平。松本を左WBに、岸田を右WBに配置した。
町田が追いつくか、大分が逃げ切るか。だが、町田が攻めれば攻めるほど大分の狙いがハマる図式となった。クロスやセットプレーで得点機を築く町田を、修行のファインセーブや組織的守備でしのぎながら、カウンターのチャンスを狙う。
スローイン時に松本が遅延行為で、続いて接触プレーで國分が続けざまにイエローカードを提示され、白熱した終盤を迎える中、指揮官は90分に坂井大に代えて野上拓哉を投入し、前線の鮮度を高めた。
4分のアディショナルタイムが過ぎようとしていたとき、カウンターで伊佐が抜け出した。ドリブルで攻め上がる伊佐はまたも相手を引きつけながら並走してきた姫野に横パス。姫野がダイレクトでこれを押し込み、とどめを刺した直後に、勝利を告げる長いホイッスルが鳴り響いた。フル出場で走り続けた2人による迫力ある攻撃だった。
勝利という結果以外にも収穫は大きい
プレー精度や選択肢の判断において課題はあったが、選手たちは90分を通じてチームとしての狙いを表現しようとし続けていた。スコアが動く前、相手がブロックを作っていた時間帯には攻略にやや苦心したが、辛抱強く後ろでボールを動かしながら、サイドを起点にチャンスを作れるときを、前線も我慢して待ち続けた。その取り組みが相手を疲労させ、流れを引き寄せることにつながっていく。
つねに先行した展開も、コンパクトに戦う相手に対する大分の狙いをさらに有効にした。2失点はしたものの、バリエーション豊かな4得点。キーとなったのはいずれも、比較的これまでに出場機会の多かったメンバーだ。
2ゴール2アシストと大活躍した伊佐だが、試合後は冷静に振り返った。
「トーナメント戦の天皇杯は、相手も90分以内に追いつこうとして前がかりになるので、それが上手く僕たちの攻撃にハマった。リーグ戦ではこうは行かない」
それでも、出番に飢えていた戦力が公式戦出場を果たしたことに加え、坂井大の今季初ゴールや姫野のプロ初ゴール、野上のプロデビューなど、収穫は多い。さらに3回戦は現在J1首位の柏と、ホームで対戦することが決まった。「自分たちのサッカーがJ1チームを相手にどれだけ通用するのかを見てみたい」と片野坂監督も楽しみな様子だ。
この試合では出番が巡ってこなかったメンバーもいれば、出場はしたものの自分では納得行かない出来栄えだったメンバーもいるが、坂井大はこう振り返った。
「今日の出場メンバーは、いつも練習試合で一緒にやっている仲間。その一丸となっている感じがうれしかった」
中3日でJ2第20節・アウェイ群馬戦。町田戦の勝利が刺激となり、チーム全体で上昇気流に乗りたい。