炸裂したカウンター。狙いがハマって今季最多の4得点、後藤はハットトリック
13日に行われた明治安田J2第13節H名古屋戦。個の能力の高いプレーヤーが居並ぶ相手に対し、その特徴を踏まえた戦略が、今節も見事にハマった。エースストライカーとして成長を遂げつつある後藤優介のハットトリックを含む4得点で、名古屋に快勝。5位へと浮上した。
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ポイントを押さえた名古屋対策
さまざまなタイプの攻撃陣を取り揃え、毎節、メンバーやシステムを変える名古屋の出方は、今節も予想しづらかった。スターティングメンバーが発表になってみると、またこれまでとは異なる並び。今週トレーニングに復帰したばかりの怪我明けの佐藤寿人の名もあった。
「おそらく足元でショートパスをつないでくる。岐阜のような形で高い位置を取ってくる。4バックでも3バックでも地上戦でやってくるだろうから、粘り強く我慢強くやろう」
そう指示を出して選手たちをピッチに送り出した片野坂知宏監督。フタを開けてみれば、名古屋のシステムは3-5-2だった。ただ、名古屋は「システムはあってないようなチーム」(片野坂監督)。両WBの和泉竜司と宮原和也はどんどん中に入ってくるし、3バックの両脇の酒井隆介と内田健太もガンガン上がってくる。中盤より後ろも人数をかけて攻撃に絡みながら、トップ下の玉田圭司が自由に動き、佐藤と押谷祐樹の2トップに大分の3バックの脇や背後を狙わせる作戦かと思われた。
それをまともに抑えようとすれば、食いつき過ぎて抜かれてしまう。下がり過ぎずにブロックを構え、「回されていいところは持たれてもいい」と割り切りながら、縦パスが入ったところを根気よく潰し続けた。「前節の岐阜戦からの流れがあって、岐阜戦であれだけ回されて我慢強く耐えられたことが、今節の名古屋戦でも生きた」と、指揮官は振り返る。
最後は小手川。大きな意味を持つ先制点
立ち上がりはボールポゼッションの上手い名古屋に地力の差を見せつけられるかと思われたが、こちらも負けじと積極性を発揮した。特に岸田翔平は、マッチアップした和泉を振り切って攻撃を仕掛け、自身も何度も好機に顔を出した。川西翔太は豊富な運動量でボール奪取から攻撃へと切り替え、積極的にスペースを突いた。
21分、大きな意味を持つ先制点が生まれる。川西からの縦パスを伊佐耕平が前線でつなぎ、後藤がシュート。枠をとらえて楢崎正剛に阻まれたこぼれ球を、そこに詰めていた小手川宏基が押し込んだ。この1点が相手を前がかりにさせ、このあとのカウンターの嵐へとつなげていく。
風間八宏監督は「相手に攻撃させなければ守備はする必要がない」という究極の理論を、実際にピッチに落とし込もうと貫く人だ。トレーニングでも守備練習はしない。攻撃のクオリティーが上がってくれば、それにつれて自ずと守備の課題も改善されると考えているのだと思われる。つまり攻撃の概念にはリスクマネジメントも込みで、そこは選手たちの判断力を培う方針なのだろうが、選手が大幅に入れ替わったチームに今季就任したばかりの風間サッカーが根付くには時間がかかる。
その発展途上ぶりが露呈して、名古屋の守備には隙があった。攻撃中にボールを奪われると守備への切り替えが遅く、どんどん縦パスを通されてしまう。守備の決まりごとが徹底しておらず、ボールサイドに寄り過ぎるため、逆サイドでは大分の選手が広大なスペースでフリーになれた。
PKでの2点目がもうひとつの分水嶺
それでも1点差の間は、名古屋も元気だった。ビハインドを取り返そうと攻めてくるところを粘り強い対応でシュート1本に抑え、カウンターチャンスを狙いながら1-0で折り返すと、53分、もうひとつの分水嶺が訪れる。自陣右サイドからの後藤の大きなサイドチェンジをスペースで受けた小手川が、余裕をもってゴール前に走りこむ伊佐へとパス。ここで伊佐と酒井が交錯し、これがPKとなる。酒井にとってはやや厳しい判定だったが、後藤がきっちりと沈めて追加点。
なかなか攻撃が上手く行かず、カウンターで守備の穴を突かれまくる名古屋の選手たちに、精神的な疲労の色が広がった。それを払拭するかのように54分、風間監督は櫛引一紀を下げて前線にシモビッチを投入。ボランチでスタートした磯村亮太が3バックの右に入り酒井が中央、和泉がボランチ、押谷が左WBと一列ずつ下がった。
199cmストライカーの登場に緊迫するかと思いきや、その布陣変更でもたつく隙を突くように、57分、大分はさらなる追加点を奪う。中盤でこぼれ球を拾った伊佐が前線へと抜け出す後藤の前にスルーパス。楢崎との1対1を迎えた背番号9は、打ち急ぐことなく丁寧にベテラン守護神の指先をかわして、確実にゴールへと流し込んだ。
59分、名古屋は押谷に代えて杉本竜士。67分には佐藤に代えてフェリペ・ガルシアと、立て続けに攻撃陣にテコ入れを図る。前線のパワーが増した名古屋に対抗しようと、片野坂監督も73分には疲労の見える戦力を2枚替え。伊佐を下げて後藤を1トップに、川西をシャドーに一列ずつ上げてボランチに前田凌佑を投入すると同時に、山岸に代えて岩田智輝を右WBに据え、岸田を左へと移した。さらに78分、足をつらせた岸田を黒木恭平へとチェンジ。
3点リードを奪ったことで連戦を見越したカードの切り方が出来たのかと思いきや、この交代について指揮官は試合後、「迷いました」と明かした。81分にフェリペ・ガルシアのドリブルからのパスを受けたシモビッチに足技を生かした反転シュートで1点を返されながら、テクニカルエリアをはみ出さんばかりにして、休むことなく指示を送り続けた。
随所に長所を発揮して引き寄せた結果
だが、逆に1点を返したことで名古屋は最後まで得点を狙い続けた。前がかりになればなるほど、背後はガラ空きになる。大分がボールを奪うと、面白いようにカウンターがハマった。
そして85分。田口泰士の足元を前田がつついて川西がボールをさらうと、たった一人で最終ラインに残っていた酒井を前田が抜き、並走してきた後藤にパス。川西、前田、後藤の3人対楢崎1、その後ろを酒井が追ってくるという図式を締めくくったのは後藤。落ち着いて楢崎の脇を突き、この試合の自身3点目を決めた。
今季最多の4得点を挙げることが出来た要因には、もちろん、名古屋の守備のお粗末さもある。ただ、立ち上がりに続いた相手の時間帯を粘り強くしのぎ、少しずつカウンターを繰り出しながら先制点、追加点と奪って、徐々に相手をこちらのペースへと巻き込んでいった力が、この結果を呼び込んだ。
前線から狙いをもって連動した守備、ボランチと最終ラインの連係によるバイタルエリアのケア、GKの的確で落ち着いた判断。岸田のサイド制圧や山岸の緩急つける試合運び、伊佐の攻守にしつこい献身性と、随所にチームのストロングポイントが発揮された一戦となった。
福岡、湘南に続きJ1からの降格組を倒して、5位に浮上。また中3日で長崎、さらに中3日で町田とアウェイ連戦がやってくる。いずれも岐阜や名古屋とは異なるタイプのチーム。勢いはそのままに、頭を切り替えて乗り切りたい。