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試合レポート

3連戦の3戦目、短い準備期間で徹底した作戦がハマり難敵から勝ち点3を奪う

 

前節から中3日で迎えた3連戦の3戦目。アウェイへの移動もあり体力的にも厳しいなか、チームは前日に浸透させた対岐阜の戦術を、一体感をもって遂行。見事にその狙いがハマり、2-1で勝利を挙げた。

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“秘策”発動。4-4のブロックで岐阜の攻撃に対応

 
試合前々日、片野坂知宏監督は岐阜戦に向けての秘策があると明かした。短い準備期間で、それほど難しいことは出来ないはずだと思った。
 
岐阜の流動的なパスワークを封じるために、ただ引いて守ってもあまり効果的でないことは、第8節に岐阜と対戦した湘南が証明している。指揮官のぶつけた戦術は、むしろ第10節でFKから得点されて敗れたものの、守備から攻撃に切り替えて多くチャンスを作った金沢の戦い方に近いものだった。
 
先発メンバーは前節・松本戦と同じだが、システムは前節の3-4-2-1を時計回りにスライドさせた形で、立ち上がりから4-4-2。2トップは必要に応じて縦関係となり、トップ下が岐阜のアンカーの庄司悦大のマークに付いた。岐阜がボールを持った場面では4-4のブロックを構えたが、バイタルエリアで相手の前線に縦パスが通されると即座に球際へと潰しに行った。サイドの対応ではマークをはっきりさせ、状況に応じてこまめに受け渡しを繰り返した。
 
その実にメリハリの効いた守備で相手を封じつつ、隙あらば攻めようと試みるが、こちらが攻撃に出ていた11分、岐阜の左SB福村貴幸のクロスからゴール前でフリーになっていた難波宏明がシュートを放ち、上福元直人のファインセーブでしのぐことになる。25分にはビルドアップでの判断が悪く、高い位置で古橋亨梧にボールを渡してシュートされるという危ないシーンを作ってしまう。
 
40分には庄司のFKを田中パウロ淳一に頭で合わせられたがわずかに枠の上。いずれも失点にはならずに済んだが、そういった展開も選手たちの意識をセーフティーな試合運びへと傾けたのだろうか。
 
前半は相手に圧倒的に支配されながら、無理に攻めず防戦に専念する、3連戦中のアウェイ戦で割り切った“省エネ”サッカーに徹しているようにも見えた。
 

狙いが完璧にハマった先制点、お手本のような追加点

 
後半は一転、立ち上がりからギアを上げる。指揮官はハーフタイムに「攻撃のときには前を見て動かそう。奪ったら出来るだけ後藤や伊佐を見よう」と指示していた。相手の間で受けながらボールを動かし、アタッキングサードまで運ぶ場面が増えた。
 
川西翔太と小手川宏基のワンツーで持ち上がり伊佐耕平のクロスに最後は小手川。福森直也のクロスを起点に鈴木惇のシュート、さらにまた後藤のシュートと立て続けにチャンスを作る大分に対し、岐阜がもう一度ペースを握り返そうと、前がかりになっていた62分に、先制点が生まれる。
 
自陣でボールを奪った伊佐が前方スペースへとボールを送る。攻め残っていた後藤と相手CB2枚とのよーいドンは、タッチの差でヘニキが後藤より先に触るが、中途半端。さらに田森大己のクリアがこぼれたところを後藤がさらってシュート。ビクトルも必死で右足を伸ばしたが、その足にバウンドしたボールは弧を描いてゴールに吸い込まれた。
 
「相手は点を取りに行くと両SBが上がり2CBだけが残って、守備が手薄になるときがある。後藤と伊佐のスピードを生かしてそこを突く」
 
試合前からそう話していた片野坂監督の狙いどおり。粘り強い守備で相手の意識を攻撃へと集中させたことで生まれた絶好機を、逃すことなく得点へと結びつけた。
 
さらに76分には川西からの展開を右サイドで受けた小手川がクロス。ゴール前に勢いよく飛び込んできた伊佐の背後で後藤が頭で合わせると、ボールはポストに当たって枠の中へ。これもカウンターからクロスで奪う得点のお手本のような追加点に、「1失点は覚悟していた」という片野坂監督は、ガッツポーズを見せた。
 

最後は5-4のブロックでしのぎ切る

 
岐阜が永島悠史に代えて阿部正紀を入れ、システムを4-4-2に変更すると、2点リードしている大分は5-4-1のブロックを作って守備を固める。立ち上がりに続いて相手が形を変更した時も、しっかり枚数を合わせて守備の意識を切らさないように努めた。
 
だが、岐阜もこのままでは引き下がらなかった。82分、國分伸太郎のマークを振り切った山田晃平が右サイドからクロス。これに対する福森のヘディングでのクリアがゴールに吸い込まれ、オウンゴールとなってしまう。
 
1点差に追い上げた岐阜はゴール前へボールを送り続ける。大分は守備を固めつつ3点目も狙うカードを、岐阜はひたすら攻撃の勢いを増すカードを、互いに切り合いながらの戦い。4分のアディショナルタイムもアーリークロスに難波がボレーで合わせようとした場面などのピンチを集中した守備でしのぎ、最後は相手右からのアーリークロスをを上福元ががっちりキャッチして祈るように倒れこんだところで、長いホイッスル。
 
相手の特徴を踏まえて指揮官が立てた戦術を、試合前日のミーティングと短いトレーニングだけで理解し、相手との細やかな駆け引きの中でそれを表現したチーム。その戦術遂行能力の高さについて訊くと、後藤は「それが出来るメンバーが集まって、みんなで考えながらやっている」と答えた。
 

多彩な選択肢から繰り出された采配

 
試合後に片野坂監督に詳しく話を聞くと、ベンチメンバーの選択からはじまり、選手起用の選択肢は実に多岐にわたっていた。今日はベンチに入っていた岩田智輝を意外なポジションで使うプランも含め、國分と黒木恭平のチョイスや黒木の前後左右のポジション、小手川と後藤の位置関係、黒木を入れる際に誰をピッチに残すかなど、選手のストロングポイントとウィークポイントを前提に、パターンはいくつも出てきた。
 
それを相手の特徴や力関係、大木武監督の采配を見つつ、選んでいった采配。選手たちはそれに応えたり、いまひとつ応えられなかったりもしながら、最後まで集中して戦い、勝利を奪った。ちなみに、ボール支配率は31%:69%。岐阜のパス数はなんと934本を数えた。むしろこの支配率の低さ、相手パス数の多さが、この作戦の成功を如実に物語った一戦だった。
 
短い期間で意思疎通して右肩上がりの結果を出した3連戦は、チームの結束感を感じさせる。対クロスの守備やボールの動かし方など、修正点はまだまだあるが、チームは着実に成長を続けている。