相手の出方を利用した狙いがハマる。全員がそれぞれの役割をこなし、辛抱強く攻めて勝ち点3
15日に行われたJ2第8節H金沢戦は、ほとんどの時間帯でボールを握った大分が辛抱強く攻め続け、金沢の堅守をこじ開けて1-0で勝利した。3日間の練習で金沢対策を徹底し、熊本・大分地震から1年のこの日、心をひとつに臨んだ試合。大銀ドームは3試合ぶりの勝利に沸いた。
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金沢の守備方式を逆手に取る狙いが奏功
今季から柳下正明監督の下、マンツーマンディフェンスを敷いている金沢。この試合でも、CB2枚とダブルボランチが大分の1トップ2シャドーをケアし、ダブルボランチが大分の2シャドーを制限、両SHが絞って大分のダブルボランチを、また2トップも中を閉めて大分の3バックを見るという、4-2-2-2の布陣で大分の自由を制限しにかかった。
だが、これを予想していた大分は、いつもとは異なる動きで金沢のマークを撹乱する。山岸智と岸田翔平の両WBには敢えて低い位置を取らせ、マークしてくる相手SBを前へとおびき出して空いたスペースで林容平が起点となる。逆に低い位置取りのWBに相手SHが食いついてくれば、こちらのボランチが自由になれる狙いだった。
潰し屋タイプのダブルボランチが付いてくる三平和司と後藤優介の2シャドーは、相手の正面を避け、足元ではなく動きながら受ける動きでマークを剥がした。林を含めた3人がめまぐるしく動きながらワンタッチで出しては受けを繰り返すことで、金沢のマークをかき乱す。
鈴木義宜と福森直也も最終ラインの両翼から積極的に持ち上がって数的優位を作り出した。リスクマネジメントは竹内彬を軸に、逆サイドとボランチの1枚で行う。レフティーの福森の復帰はこの面でも大きかった。
こういった作戦の中で、岸田の変則的な動きがさらに相手にとって厄介なものとなったようだ。ボールを出すと中へと潜り、立ち上がりからいきなり後藤へのスルーパスを通す。その後もしばしば曖昧なポジションを取り、試合後の監督会見でも真っ先に敵将に「これまでとは違う動きをしていた」と、想定外だった要素の最初に名を挙げられた。
修正されても辛抱強く攻め続けた
大分の選手をつかまえきれない金沢は、ただちに守備に修正を施す。プレスのラインを下げ、ブロックを作って、大分の選手にボールが入ってから奪いに行くよう変更。これによりトラップの精度不足が狙われやすくなり、立ち上がりほどの優勢は取れなくなる。
金沢としてはシステムを変えたつもりはなかったようだが、杉浦恭平が押し下げられていたため、最終ライン5枚のブロックのように見えていた。つまり大分にとっては仮想ミラーの形となったため、金沢のプレスの掛け方を見極めながら鈴木義や福森が持ち上がることで、また数的優位を作り出せていた。
そのようにして生み出した好機は数多。だが、古巣戦に燃える作田裕次が率いる金沢の堅守は手強く、決定的なパスが入るところを潰されたり、シュートやクロスをブロックされたりと、なかなかゴールを許してもらえない。狙いをもって入ったCKも、三平がフリーで放ったシュートは守護神・白井裕人のファインセーブに阻まれてしまう。この日は流れの中でも本領発揮していた鈴木惇の自慢の左足FKは、惜しくも枠をわずかに外れた。
攻めながらスコアレスのまま流れる時間。ひとつのミスで失点すれば、流れは金沢に傾きそうだった。後半立ち上がりに金沢がペースをつかむと、大分は54分、足を痛めた林を下げ川西翔太をボランチに投入。三平と小手川宏基を一列ずつ上げて流動性を増した。対する金沢は60分、右SHを大槻優平から宮崎幾笑に交代。元気な19歳の突貫で勢いを得て、先制点を狙いに行く。
待望の先制点は後藤の2戦連続ゴール
守備でややバタついた場面もあったが、中盤の底で川西がボール奪取力を発揮した。68分に大分が山岸を國分伸太郎に代えると、金沢は73分にトップを佐藤洸一を垣田裕暉に交代。最終ラインで回されるボールを献身的に追い、広範囲を動いて起点を作ろうと務めた佐藤はだいぶ疲れている様子だった。
待望の先制点は75分。右サイドでボールを持った鈴木惇を見る相手選手たちの背後をするするとゴール前に抜け出したのは小手川。鈴木惇のフィードを相手が追いつくより早くバックヘッドで後藤に落とすと、後藤はU-18の先輩から託されたボールを頭で押し込んだ。
大分は77分に三平を伊佐耕平。金沢は82分に中美慶哉を金子昌広にと、いずれも攻撃的カードを切って最後まで攻め合う。金沢がシンプルな攻撃で追いすがるなか、小手川との連係から國分が決定機を迎えたり、後藤が抜け出したりと、大分も攻撃の手は緩めず。
リードはわずか1点だったが、終盤の選手たちのプレーには精神的余裕が感じられた。4分のアディショナルタイムを使い切って勝利した選手たちの表情は、短期間で対金沢の戦術を共有し、それを見事に遂行した達成感に満ちていた。
組織の中でそれぞれが各自の役割を全う
GKからのビルドアップを危なげなく貫き、最後の金沢FKをがっちりキャッチしてクリーンシートに貢献した上福元直人。献身的な動きでスペースを作った三平やくさびを受けゴールを狙い続けた後藤、相手の激しい寄せに負けないキープ力で時間を作った林。先発・交代を含め出場した選手全員が、辛抱強く組織の中でのそれぞれの役割を遂行し続けた末の勝利だった。
この試合ではいままでには不足していた流動性が大いに見られ、それが実際にチャンスにつながっていたが、この流動性を実現した陰のMOMは小手川だったかもしれない。攻撃面ではシャドーに上がってからのほうが見せ場を多く作ったが、彼がボランチの位置でつねに賢く布陣のバランスを取り続けたことで、さまざまなポジションの選手が持ち場を離れ、相手のマークをかき乱すことが出来たと言える。こういった“黒子”としての仕事が、組織的サッカーには不可欠だ。もともとは華やかなサイドアタッカーだったが、判断力に期待されてボランチを務めるようになってから、小手川の存在感は奥深さを増したように思う。
特徴ある守備を敷く金沢に対して戦術がハマっての勝利だったが、今後の試合について片野坂監督は「こんな形でやってくるチームは少なくて、完全なミラーでマッチアップしてくると思うし、次の湘南も前からプレッシャーをかけてくる」と頭を切り替える。それでも「受け方やバランスなどについては、一歩前進した」との評価。
2戦連続ゴールで勝利を引き寄せた後藤も「攻めてはいてもなかなかフィニッシュまで行けなかった」と、喜びの直後に課題を挙げた。
「次の湘南にしても、京都にしても松本にしても、力を試されるゲーム」。その後の今季初の連戦に向けても、まだまだやるべきことは多いと指揮官は表情を引き締めた。