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試合レポート

極寒の敵地で強風に立ち向かった。相手の個人技に沈みはしたが全力を出し切った一戦

 

4月とはとても思えないほどの冷え込み。吸い込む空気の冷たさに頭が痛くなる17時キックオフのアウェイゲームは、冷たい北風にボールを流されて予想以上に厳しい展開となり、今季初の複数失点。2点のビハインドを一度はゼロに戻したものの、終了間際に3点目を奪って勝ち点3を手にしたのは、山形のほうだった。

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スイッチが入らなかった風下の前半

 
風下から攻めた前半はもどかしい展開となった。相手3バックの脇やボランチ脇のスペースを突く狙いは立ち上がりから見えたが、パスがつながらず、パススピードも遅い。
 
ペースは完全に山形のものだった。3-4-2-1システムの特徴をシンプルに把握し、その弱点をカバーしながら強みを的確に生かしてダイナミックに展開する相手は、ボールが前線に収まると、それをスイッチに流麗なコンビネーションで大分の守備陣を翻弄する。
 
最初の失点は4分。瀬沼優司がフィードを胸で落とし、走りこんだ茂木力也が右斜めからクロス。竹内彬がなんとか足を伸ばしてクリアしたが小さくなり、大分の守備陣が寄せるより早く瀬沼がそれを拾って勢いよくネットに突き刺した。
 
山形にとってはこれが今季ホーム初ゴール。アウェイとあわせても4試合ぶりの得点だ。第2節以来勝ちなしだったホームチームはいきなりの先制点に勢いづき、迷いなく何度も大分ゴールへと迫った。
 
大分も風に抗いながら攻めるが、なかなか前線にボールが収まらない。一列降りて組み立てに参加する鈴木惇の左足からの得意のフィードも、風に流されて相手に渡るばかりだ。岸田翔平や鈴木義宜も果敢に攻撃参加を試みるが、攻撃はことごとく潰えてしまう。
 
42分にはPKを献上し、鈴木雄斗に2点目を挙げられた。2点のビハインドを背負って試合を折り返す。
 

後藤のファインゴールで勢いを盛り返す

 
風上に立った後半は、ようやく形が作れるようになる。第3節以来のスタメンとなった山岸智が左サイドで積極的に仕掛け、三平和司がボールに触る回数も増えた。だが、2点リードした山形は5-4-1のブロックを敷き、大分の攻撃を網にかける。縦パスが入ると素早くプレッシャーをかけてミスを誘い、林容平がボールを収めようとすると一気呵成に潰しにかかった。
 
勢いは出てきたもののシュートに至らないもどかしさを打ち破ったのが、57分の後藤優介のミドルシュートだった。FKの流れからセカンドボールを拾った竹内が後ろで構えていた小手川宏基に落とし、小手川がそれをサイドチェンジ。受けた後藤への相手の寄せが遅れたとき、ゴールを見たストライカーは一閃、迷わず右足を振り抜いた。意表を突いた30メートル超の弾道はアウトにかかって枠の手前で落ち、1点を返した。
 
これが反撃の狼煙となり、大分はさらに攻勢を強める。それを見た片野坂知宏監督はアップしていた川西翔太と國分伸太郎を呼んだ。「ビハインドの状況になったら4バックに変更しミスマッチを作って攻めようと考えていた」と、試合後に明かしたプランを遂行するときが来ていた。
 
2人がピッチサイドで流れが切れるのを待っていたとき、皮肉にもこの2人と交代することになる2人のコンビネーションで2点目が生まれた。左サイドで仕掛けた山岸に相手が寄せたときに出来たスペースを使って、三平がボールを受けに行き、そのまま持ち込むが早いかシュート。三平の今季初ゴールで試合は振り出しに戻った。
 
ここで交代してシステムは4-4-2に。川西がボランチに入り、小手川が左SHへ。岸田は左SBに回り、岩田を右SBにしてその前に國分を据えた。
 
対する木山隆之監督も左WB瀬川和樹を山田拓巳に代え、右WBに配置して鈴木雄を左WBに回す。山岸と三平に崩されはじめていた山形の右サイドの守備色を強めた。
 

阪野の個人技にふたたび突き放されて

 
古巣相手に躍動する川西が持ち味を生かし、前への推進力を増す。スイッチとなるスルーパスも通りはじめた。相手のプレスがさらに落ちた時間帯でもあり、ミスマッチを突き合うカウンターの応酬となる。75分には林がウラに抜け出しビッグチャンスを迎えるが、GKに当たってゴールに入るかと思ったシュートは、高木利弥の見事なカバーリングに掻き出されて得点ならず。
 
78分、山形はドリブラー汰木康也に代えてパサーのゲームメーカー風間宏希。システムを3-5-2に変更して、大分に傾いた流れを引き戻そうとする。
 
大分3枚目のカードは84分、林に代えて伊佐耕平。前線の勢いを持続させ逆転を狙いに行くが、残念ながら勝ち越し点を奪ったのは、大分に押し込まれていた山形の方だった。86分、風間のクロスを阪野豊史が胸トラップからの反転シュート。高い技術と体の強さを存分に生かした浦和アカデミー出身のストライカーの見事な個人技だった。
 
前節の愛媛戦に続き竹内が上がってのパワープレー。アディショナルタイム4分にすべてを懸けて追撃したが、ふたたび追いつくことは出来なかった。
 

チームとしての前進が見えた試合でもある

 
前後半を通して振り返ると、風の影響が見た目以上にあったことがうかがえる。あれだけ風に流されて前線に通らないのであれば、ロングフィードで展開する鈴木惇よりも、地上での推進力を誇り前を向いてパスを出せる川西に、もっと早めに切り替えてもよかった気もするが、福森直也が負傷中の現在、組み立てに参加させる左利きの存在は必要不可欠で、拮抗しそうなゲームではプレースキックも捨てがたい。
 
ゲームの中の「たられば」はいくつもあって、山岸と三平で崩せていたタイミングでの交代がどうだったのか、本来のアグレッシブさを発揮できていない岩田のコンディションはどうだったのかと、あとから振り返ればキリがない。
 
ただ、認めれば単純に山形が強かった。よく競り勝ってボールを収め続け最後に決勝点を挙げた阪野をはじめ、瀬沼と汰木の力量は高い。また、通常の3-4-2-1システムでは縦に仕掛けることがセオリーの両WBがダイアゴナルに中へ走り前線が開くなど、システムの特性をシンプルながら深く生かした攻撃は見応えがあった。
 
守備においても、大分の2シャドーの自由を奪うことで前線3枚のコンビネーションを分断。大分をよく研究し、堅守のチームらしくメリハリのある統制の取れた組織守備で相手のストロングを消していた。百戦錬磨の木山監督の手腕だ。
 
敵将は試合後、「われわれが九州に行った時は逆で苦しんだが、日本はものすごく気候差がある国なので、寒い所に来るのも暑い所に行くのも大変。その中で結果を残して行くのがプロの選手だと思うので今日は良くやったと思う」と話したが、これは決して情けではなく、実際にそれだけ過酷な環境だったのだと思う。
 
片野坂監督も「敗れはしたが選手を誇りに思う」と胸を張った。負傷者も多いなか、現状持てるものを出し切った感はある。プレー精度や判断など改善すべき点は数多くあるが、苦しかった前半からミドルレンジのものを含め積極的にシュートを放ったことや最終ラインからの攻撃参加が増えたことなど、チームとしての前進が見えた試合でもあった。
 
選手たちはいつも以上に疲れた表情でスタジアムを後にした。だが、三平にロッカールームの雰囲気について訊ねると「全然大丈夫。次に向かって行ける」という返事。今週は試せなかったが指揮官の考えているオプションも楽しみだ。次節はホーム。今節、劇的勝利で勢いに乗ろうとする金沢を迎え撃って、戦いは続く。