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試合レポート

最後に見せたストライカーの意地。林の今季初得点で牙城を突き崩して+1

 

1日に行われた明治安田J2第6節H愛媛戦。構えて守る相手を攻めあぐね、先制されてさらに攻略困難な状況になったが、なりふり構わずあきらめずに攻めた95分、それまでは相手の厳しい寄せに仕事を阻まれていたストライカーが、執念で意地の同点弾を押し込んだ。

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奪いに来るのを止め、引いて守った愛媛

 
難しい試合になると予想されたミラーゲームだったが、フタを開けてみれば想像以上。「あそこまで構えてくるとは予想していなかった」と、片野坂知宏監督は試合後に明かした。
 
後方からビルドアップする大分に対しては、ハイプレスをかけてミスを誘い、そこで奪って攻め返すのが、敵にとっては効率的で効果的だ。全員守備でハードワークする愛媛ならなおさら、その手で来ると思っていた。だが、愛媛がプレスをかけてきたのは立ち上がりだけ。10分もすると矛は収まり、間もなくシステムも3-5-2へと変わった。守備時には5バックになって少し下がった位置で構え、大分の攻撃を受けるようになる。
 
スペースを消された大分は上手くボールを動かすことが出来ない。三平和司や後藤優介、小手川宏基らが連係して崩そうとするが、ことごとく呼吸が合わなかった。林容平が収めようとすると2人がかりの素早く厳しい寄せで潰しに来る。立ち上がりには最終ラインから攻撃参加していた岸田翔平もトーンダウンを余儀なくされ、鈴木惇のロングフィードやサイドチェンジも、読まれて受け手の前でカットされた。逆にカウンターで攻め込まれ、河原和寿にゴールを脅かされた場面もあった。
 

愛媛の牙城の前に攻めのアイデアを欠く

 
もとよりそういうプランだったのかと試合後に問うと、敵将・間瀬秀一監督は否定し、目の前で起きたことに対処しただけだと話した。前半途中から2トップとなった河原と西田剛によれば、「前から行こうとはしていたのだが、予想以上に相手が上手かったので、そこで失点しないようにやるべきことを整理した」「普通は前から行けば相手はミスしてくれるのだが、大分はそこの質が高くて何回も剥がされたので、自分たちで判断して引いて守るようにした」とのこと。
 
攻め手を見つけきれずに焦れるなか、後半立ち上がりからはさらに相手の勢いが増し、65分、先制点を奪われる。近藤貴司から展開されたボールを小池純輝がダイレクトでクロス。そこに斜めに飛び込んできた西田が、見事な形でダイナミックにネットを揺らした。
 
なおも追加点を狙いそうな愛媛も、追撃する大分のボール回しの前に再びブロックを敷く。攻め崩そうと躍起になる攻撃陣は、それに集中するあまりか、駆け引きが困難だったのか、足元で受けるばかりになり背後を狙う動きやアイデアがなく、かといってミドルシュートも打たない。パスの出しどころを探して判断も遅くなり、事態は難しくなるばかり。
 
右サイドで相手の左WB白井康介の上がりを阻んでいた松本怜が32分に負傷交代し、交代枠が2つしか残っていなかったことも采配を難しくした。各ポジションに疲労が見えるなか、指揮官が慎重に切ったカードは76分。三平を下げて川西翔太をボランチに配置し、小手川をシャドーに上げた。82分には鋭い斜めのクサビで貢献した黒木恭平の疲労と警告を考慮して國分伸太郎にチェンジする。
 
小手川のワンツーからの崩しや後藤のドリブルなどでチャンスを作れた場面もあったが、フィニッシュの精度を欠いた。パスコースを探しながら、時計が気になりはじめる。
 

がむしゃらに奪ったストライカーの今季初ゴール

 
敢えてバランスを崩して相手を撹乱しようと、竹内彬や鈴木義宜も自ら持ち上がったりしたが、林堂眞を中心とする愛媛の牙城は崩れない。
 
ついに88分、意を決した選手たちがピッチ内の判断で竹内を最前線に上げパワープレーに打って出た。鈴木惇が竹内をめがけてフィードを送るが、そのセカンドボールへの周囲の反応が遅く、効果的な攻撃へはつながらない。指揮官に中盤での仕事を期待された川西の役割も浮いてしまったし、これはチームの目指すコンセプトからは程遠い戦術だった。
 
それでも、ホームでみすみす敗れるわけにはいかないという選手たちの執念が、この判断を導き出した。即効とまでは行かなかったが、徐々に愛媛のラインを押し下げていく。そして95分、ゲームは劇的に展開した。
 
右サイドから崩して岩田智輝の送ったクロスを相手DFがクリアミス。さらにGKのクリアも不十分になったところを、攻め上がっていた岸田が拾って林に出すと、林は胸トラップで林堂と上手く入れ替わり、5人の敵に囲まれながら渾身でボールをゴールへと押し込んだ。視界を塞がれゴールは見えていなかったようだ。「どちらの足で蹴ったかも覚えていない」という状態だった。だが、開幕戦で微妙なオフサイド判定によりゴールを認められず、その後はPKも外して波に乗りそこなっていた背番号11は、アディショナルタイムぎりぎりに、ストライカーの意地で同点弾をものにした。
 

強硬手段に出ざるを得なかった不甲斐なさも

 
試合後、指揮官は選手たちの決断をたたえながら、複雑な思いものぞかせた。
 
「パワープレーは選手たちの判断。練習はしていなかった。今日は結果が出て良かったが、また違う攻撃の仕方、最後まで自分たちらしい戦いが出来るようにもしなくてはならない」
 
だが、チームコンセプトに則った形で得点できなかった不甲斐なさは、選手たち自身も強く感じているはずだ。勝ち点1の立役者としてヒーローインタビューに臨んだ林は「ゴール以外は何も出来ていない。チームに迷惑をかけた」と、狙いの形で得点できなかったことをひたすら悔しがった。膝と手にぐるぐる巻きにしたアイシングが痛々しくその気持ちを物語るようだった。
 
目指すところを追求しながら、目の前の結果も出していかなくてはならない。同点弾を喜ぶチームメイトの中でいち早くボールを拾って2点目を取りに行こうとした竹内の勝利への執着心が、戦いの厳しさを教えてくれる。この勝ち点1をポジティブに捉え、次節・アウェイ山形戦に向けて準備を進めていきたい。