アディショナルタイムに劇的勝利。昨季の積み上げを感じさせる内容で好発進
ただいま、J2。
アディショナルタイムに勝ち越しゴールを挙げ、劇的勝利で好スタート。2年ぶりに帰ってきたステージでの戦いは2月26日、強豪・福岡とのアウェイ戦で開幕し、両者譲らぬ九州ダービーを2-1で制した。まだまだ課題はあれど昨季の積み上げを感じさせる内容で、今季への期待が高まる。
J2での初采配となった片野坂知宏監督は試合後、「(相手攻撃陣は)本当に強烈ですね…。こういう選手たちと戦って上回っていくことによってJ1が見えてくるんだろうなと思いながら見ていた」と振り返った。
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今季初ゴールは松本怜。強い気持ちにボールが転がってきた
開幕戦の緊張感からか立ち上がりは硬く、セカンドボールを拾われて、パワフルな相手攻撃陣を止めるためにファウルを連発するなどヒヤヒヤさせたが、間もなくその強度やスピードにも慣れた。
ただ、前半はシンプルに運びすぎ、チームコンセプトを表現することが出来なかった。選手間では緊張することや相手が前から激しくプレスをかけてくることを想定して、落ち着くまでは無理せずに割り切って入ろうと話し合っていたようだ。そのセーフティー志向が試合展開をやや粗いものにしてしまった。
相手がボールサイドに寄るため、空いたスペースへの中長距離パス1本でフリーの味方に展開できてしまう。松本怜のスピードや岩田智輝の個人技で高い位置まで攻め込めるのだが、これでは連係して崩すことは出来ず、かといって林容平や三平和司の頑張りで味方の上がりを待っていては、相手にゴール前を固められてしまう繰り返し。
それでも12分、後藤優介のショートコーナーから姫野宥弥の縦パスを受けた林が抜け出し、GKとの1対1を落ち着いてかわして流し込む。が、ギリギリのオフサイド判定でゴールは認められず。
先制は26分。相手の圧力をしのぎながらカウンターで攻め続け、三平の持ち上がりが岩下敬輔のファウルを誘って得たFKからだった。ペナルティーエリアのぎりぎり左外という絶好の位置。ゴール前へとなだれ込む密集へと後藤が合わせたボールは岩下の頭に弾かれるが、そのこぼれ球を福森直也がシュート。これもブロックされクリアされたところへと、後方から松本怜が走り込んだ。
「コースも見えていなかったし、敵もスライディングで寄せてきていたので、まずは枠に打とうとしか考えていなかった」という松本のシュートは、きれいに密集の間を抜けてゴール左隅、ネットを揺らした。チームの今季初ゴールは試合前日に29歳の誕生日を迎えた熱血アタッカーのものとなった。
自分たちのコンセプトに立ち返り主導権を握った後半
リードして折り返したかった前半終了間際、ウェリントンと空中で競り合った鈴木義がファウルを取られる。ペナルティーエリア左手前からのFKは駒野友一。直接ファーを狙った弾道はポスト内側を叩いて跳ね返り、ゴールへと転がり込んだ。動きや壁の作り方で高木の狙いを読んで逆を突いた駒野の勝利だった。
嫌な時間帯に追いつかれたが、チームはハーフタイムに意思統一することでその流れを断ち切った。セーフティーに入った流れを引きずってしまった前半を、「思い切って自分たちのサッカーにトライしよう」という指揮官の言葉で切り替える。
前線から奪いに行くアグレッシブさを増した後半は、次第にオープンな展開に。ボランチを使ってボールを回しながら展開する形から決定機も増えはじめる。大分の変貌に慌てたような福岡の守備に対し、53分、55分、57分と立て続けにイエローカードが提示された。
前半はあまり効果的に絡むチャンスのなかった小手川宏基が高い位置でボールをさばきはじめ、前線3枚のそれぞれの特長を生かした流動的な動きも増して、主導権は大分に。
25センチの身長差をものともせずウェリントンと競り合い、勢いのある石津にもタックルし続けた姫野に疲労が見えはじめた67分、指揮官は中盤の主導権を維持するために前田凌佑への交代を指示。スペースが出来たところで受けて出すプレースタイルにも期待した。
一方の福岡は69分に2枚替え。フォーメーションは4-4-2のまま、右SHは山瀬功治に代えて邦本宜裕。右SB駒野を下げて城後寿を投入し、城後をボランチに配置するとともに冨安健洋を一列下げ、實藤友紀を右にスライドさせた。城後の投入で中盤に攻撃の厚みを持たせる狙いだった。
邦本が絡むことによってゴール前で崩される場面もあったが、相手のミスにも救われながら攻め返し、流れを明け渡さない大分。縦パスを入れながらじわじわとラインを押し上げ、両WBが高い位置を取って相手のサイドを押し込み、相手ブロックの中でボールを動かすことで大半の時間帯を押し込んでいく。
全員で戦った末に奪った鈴木義の決勝ゴール
そのぶん、失い方が悪いと一気にカウンターも受けた。松本のスピードで後手に回ったぶんを取り返したりも出来たが、75分、ボールを奪ったウェリントンに石津とのパス交換で抜け出された場面は最大の危機だった。
「中に2人(亀川諒史と松田力)いたのでそっちに出されたらヤバいかなとも思ったのだが、相手(ウェリントン)がもうゴールを狙ってやるという顔になっていたので、しっかりポジションを取った」と、守護神・高木はその場面を振り返る。1対1に賭けてポジションを取り、ギリギリにコースを切って枠の右へとそらさせた。
焦りもあったのか、福岡の攻撃は、個々は強力ながら連係が乏しく、それぞれが単発で単調な攻撃になっていた。ウェリントンは竹内彬にほぼ潰され続け、ゴール前に飛び込んでいける松田や技術に長けた山瀬の特長を生かせないままだった。松田は79分に経験豊富な坂田大輔と交代するが、大分の球際に寄せる力は終盤まで衰えない。
片野坂監督は77分には林に代えて伊佐耕平を、85分に岩田に代えて清本拓己を投入して勢いを維持。カウンターの応酬からなおも絶好機を作り続ける。
1-1のまま突入したアディショナルタイムは3分。後藤からの展開を受けた松本が2人に挟まれながら粘ってゴール前に送ったパスから、CKのチャンスを得た。後藤の左CKを競り合って密集にこぼれたところを見逃さず、誰より早く後ろから駆け込んだ鈴木義が振り抜いてシュート。これがネットを揺らし、勝ち越し弾となる。サポーターの目の前での快挙に、ゴール裏は騒然となった。
福岡も守護神・杉山力裕が上がってパワープレーで追いすがるが、邦本のFKからのラストチャンスも大分が全員で跳ね返してタイムアップ。
最後までどちらに転ぶかわからなかった攻防は、個々の特長を生かしながら組織で戦った大分に軍配。敵将・井原正巳は試合後にこう語った。
「大分さんの最後まで戦う姿勢、走る、コンタクトのところでの気持ちは素晴らしいとあらためて感じたし、われわれはそういうところのちょっとした差が最後の結果につながらなかったのかと思う。そういうところで(勝利の女神が)大分さんの方に微笑んだ」