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今節の見どころ

ホーム連戦ではじまる今季。開幕戦の相手は最終節にも激突する好敵手・仙台

 

1月6日の新体制発表会見からスタートした大分トリニータの2024年シーズンが、2月25日、いよいよリーグ開幕を迎える。

 

「シン・カタノサッカー」という新たなスタイル

3シーズンぶりにチームを率いる片野坂知宏監督の、2度目の初陣でもある。2021年の天皇杯準優勝をラストゲームに退任後、2シーズンを盟友の下平隆宏前監督(今季からは長崎監督)に託し、自らはG大阪監督と解説者としての日々を送ってきた。その中で昨今の戦術トレンドを見据え、他チームの視察など新たな刺激を加えてアップデートされた自らのサッカー観をもとに、自チームのスカッドを見極めて打ち出したのが「攻守シームレス」をキーワードとする新たなスタイルだ。
 
初めて大分の監督に就任した2016年から6シーズンをかけて丁寧に構築した独特のスタイルは、指揮官の名にちなんで「カタノサッカー」と呼ばれ、一時代を築いた。3-4-2-1のフォーメーションを基本形にGKを組み込んだビルドアップからはじまる攻撃的スタイルは、擬似カウンターや1トップ2シャドーのコンビネーション、迫力あるサイド攻撃と、そのときどきで多彩な形を楽しませてくれたが、再現性の高い様式美を誇るゆえに逆に対策もされやすく、また、戦術トレンドの変遷もあって、かつてのように効果的に勝点に結びつくスタイルとは言えなくなってきた。
 
指揮官は今季の就任会見からそのことに言及し、全く異なるスタイルを築くと「シン・カタノサッカー」宣言。「襲い掛かるイメージ」のハイプレスにはじまってボールを奪えば素早くゴールを目指し、失えば即時奪還してまた攻める。90分間止まらず途切れずに走り続けるのが、究極に目指すところだ。粘り強いポゼッションからはじまった前回のスタイルとは確かに違い、守備を起点に息つく間もないトランジションが繰り返される。
 

スピードと強度満点の激しい応酬が予想される

それを体現するために、チームは始動からタフなトレーニングを実施。そのハードさは外から見ていたリハビリ中の選手がちょっとビビっていたくらいだったが、それを乗り越えなくては、スピードと強度が上がり続ける現代サッカーの中で生き残っていくことは出来ない。
 
スピードアップとともに選手をより躍動させるために指揮官は戦術的指示を最小限にとどめてもいるようだ。昨季、下平前監督が「共創」と銘打ってボトムアップ方式のマネジメントにチャレンジしたのもそんな時流に対応するためだった。選手は自主的な判断をより求められ、それがユニットやグループで、さらにはピッチに立つ11人での阿吽の呼吸へと広がりながら必要とされていく。局面が切り替わるたびに、あるいは状況が変わるたびに、指示を出していては間に合わないほどの切り替えの繰り返し。呼吸が合わずスライドが遅れたりパスがずれたりすれば、チャンスは一気にピンチへと転じ、その逆もまた狙えることになる。
 
そんな今季、J2でも複数のチームが「スピード」をカギに臨む。開幕戦の相手である仙台もそのひとつだ。今季就任した森山佳郎監督は、昨季のチームのデータを見て、始動と同時に走力と強度のアップに努めた。その成果か、2月初旬の熊本とのトレーニングマッチでは、あの熊本に走り勝ち大勝を収めている。大分と同じく仙台も、経験豊富な選手が抜け、ルーキーを含む若い選手が増えた。森山監督は長きにわたって広島ユースで指導し、その後は代表のアンダーカテゴリーで数々の才能を育ててきた育成畑の人だ。トップカテゴリーでの采配は初めてになるが、若手を上手く育てながらチームを熟成させていくのではないか。
 
ちなみに片野坂監督と森山監督は現役時代、広島の左SBと右SBで一緒に試合に出ていた旧知の仲だ。片野坂監督は「ゴリさんも僕も前に行くタイプで、思い切って駆け上がるのが好きだった。どちらかというとゴリさんのほうが前への推進力があり、僕はタイミングで行くタイプ。ゴリさんはモチベーターで選手とのコミュニケーションの取り方も上手い。闘う集団を作ってくると思う」と敵将を評した。
 

まずは38分の1。今季の指標を示せ

そんな因縁もありつつの、今季の開幕戦。新監督率いる相手の出方は読みづらいが、予想フォーメーションは4-4-1-1。新加入の外国籍選手を含め、各ポジションに能力の高いプレーヤーが並ぶ。若狭大志は昨季かぎりで引退したが、最終ラインでは小出悠太が先発する可能性も高そうだ。
 
こちらはプレシーズンのトレーニングマッチで採用してきた4-2-3-1と読む。負傷者が多く戦力の選択肢はある程度限られてくるが、始動から丁寧に組み合わせにこだわりながらいろいろなチョイスを試してきた指揮官が、開幕戦ではどんな11人と7人を選ぶか。交代プランも見据えて90分での勝ち切り方を複数準備して臨むのは、前回就任時と変わらない。
 
ホーム連戦でスタートする今季。開幕戦で対峙する仙台とは奇しくも最終節でもぶつかることになる。第2節でレゾナックドーム大分に乗り込んでくる横浜FCはすでに24日に山口と初戦を戦い、苦戦しながら1-1で終えた。早速、全国各地のスタジアムでさまざまな悲喜交々が繰り広げられている。
 
まずは38分の1。今季の戦い方の指標となる開幕戦で、自分たちのやりたいことをどれだけ表現できるか、そして相手より多くゴールネットを揺らせるか。

試合に向けての監督・選手コメント

■片野坂知宏監督
 
紅白戦では、あまり細かく指示するよりは選手間でコミュニケーションを取って解決できたりというのもあったので、こちらが決めつけたり指示をし過ぎたりするような必要もなかった。仙台もどういうメンバーでどういう戦い方で来るかがわからないところもあるので、あまり情報をたくさん入れ過ぎて選手のパワーが半減するのも嫌だなと。なるべくミーティングで映像を使えるぶんは使って相手の出方を少し予想もしながら、ピッチでも少しそういうことをやった。
 
選手は守備と攻撃とで自分たちの狙いを確認できていた。相手の振る舞いがある中で自分たちがどう対応するかというところは、選手も整理できているところがあるので、そういうところでトライしてくれたらと思う。
 
自分たちがプレシーズンにやってきた中で、いいパフォーマンス、いい状態の選手を使いたい。あとはその組み合わせのところ。90分の戦いの中で、勝負どころでのギアをどう上げて自分たちが上回っていけるか。そういったところを考えた中でメンバーを選んでいく。
 
■FW 11 渡邉新太
 
仙台はクオリティーの高い選手が多いチーム。みんな開幕戦で硬くなると思うし、自分たちのプランを遂行できない時間帯も出てくると思うが、まずは結果も求めながら、出来た部分をしっかりとゲームで見せられるようにしたい。このスタイルを貫くにあたっては、ピッチの中で選手間の呼吸を合わせていくところがまだまだだと思っている。やりながら実戦の中で高めていきたい。
 
■DF 2 香川勇気
 
チームとして整理されているところは、全体が把握してひとりひとりがチーム戦術を遂行できるようなかたちにはなっている。あとはそこに付け加えて、個人の能力のところで上乗せしていくことも徐々に出来つつある。今季のスタイルを体現するためには、しっかりセンターラインが安定することが大事。強さやゲームを落ち着かせるところで成長と安定が出来れば、右肩上がりによくなっていくのではないかと思っている。
 
■MF 26 保田堅心
 
コンディションは上がってきていて、いまがいちばん調子がいい。先日のトレーニングマッチでもしっかり長時間プレーできて、自分が好調なときの感覚だった。メンタルの状態もいい。今季はつねにアグレッシブに動き続け、攻撃でも前に前にと矢印を出すスタイルだが、自分はそういう選手なので、前を向いたり前に絡んでいったり、守備から切り替えたときにパワーを出していきたい。