前年準優勝チーム vs 前年準優勝監督。「過去の自分たち」を乗り越えに行く
2回戦でFC神楽しまねに快勝して進んだ3回戦。昭和電工ドーム大分に迎えるのは今季3度目の対戦となる、前指揮官の率いるG大阪だ。
まさかの今季3度目の、前指揮官との対戦
「まさかこんなに早く対戦することになるとは」とは、今季から敵将となった前指揮官が、ルヴァンカップの予選グループ分けを見たときに思わず口にした言葉だ。6シーズンにわたり指揮した大分を昨季かぎりで離れるにあたり、ホーム最終戦で滂沱の涙とともに別れを惜しんだばかり。しかもコロナ禍の影響でリーグとルヴァンカップの開幕戦がリスケジュールされたことにより、今季最初のホームゲームに、まさかの“帰還”を遂げることになった。
ルヴァンカップ第2節は2-2のドロー、第4節はG大阪が2-0で勝利。そして奇しくも天皇杯でも、互いに2回戦を突破すれば3回戦は今季3度目の対戦という状況になった。どれだけ縁があるのかとお互いに苦笑いしてしまう巡り合わせだ。しかも昨年の天皇杯の準優勝チームvs準優勝監督という話題性満点の図式でもある。
2016年J3から2段階昇格を果たし、第101回天皇杯ファイナリストへと導いてくれた前指揮官への感謝は、いまも色褪せずに胸にある。だが、勝負には情の入り込む余地はない。相手はタレント揃いのJ1チームだが、こちらにも切実に勝ちたい事情がある。
今季のチームの成長を確かめる突破口とできるか
2019年夏以降の大分は、J1残留のために手堅い戦い方を貫いてきた。今季は下平隆宏監督に率いられ、J2から1年でのJ1復帰を目指しているが、開幕からいきなりの長期連戦で腰を据えて戦術を落とし込めず、負傷者が続出したこともあり、チームスタイルを確立する余裕がほとんどないままで前半戦が過ぎてしまった。
折り返し地点に来てようやく週1試合ペースとなり、負傷者の何人かは復帰へと目処が立ちそうで、巻き返しに向けて明るい材料もある。一方で、リーグ前節の栃木戦で負傷したペレイラの離脱も公式に発表されており、天皇杯メンバーについてリーグ戦とは入れ替えると示唆していた下平監督が、どの戦力をチョイスしてどういう戦法でジャイアント・キリングを狙いに行くかが気になるところだ。
チームとしては一日も早く今季なりのスタイルを堅固にしたいところ。前半戦は勝点こそ予定どおりには積めなかったが、苦しい連戦中にも多彩な戦法を採りながら少しずつスタイルを形作ってきた。その積み上げを勝利へと結びつけるために、チームはいま、いまだ自分たちに足りないものと向き合っている。
その突破口とするに、今回のマッチアップは象徴的だ。敵将となった前指揮官を倒して「過去の自分たち」を乗り越える。片野坂監督とは高校時代から親交の深い下平監督も、栃木戦後の監督会見ではずっと悔しそうな表情をしていたが、天皇杯について質問されると「ホームだし、相手がカタだからここは勝ちたい」と勝負師の顔を覗かせた。2人の対戦は毎回、素人にはわかりづらいレベルの細かい駆け引きが繰り広げられるスリリングなゲームになる。そういうエンターテインメント性も孕みながら、大分にとって最も感動的な結果で、今季のチームの成長を確かめたい一戦だ。