リモートマッチではあるが、サッカーが出来る喜びを勝利へと昇華させたい
新型コロナウイルス禍により2月25日に中断を余儀なくされたJリーグが、4ヶ月のブランクを経て再開された。J2・J3から遅れること一週間、J1もリスタートする。再開初戦は熱い九州ダービーだ。リモートマッチではあるが、ダンボールサポーター「トリボード」に後押しされて、チームはようやくホーム開幕を迎える。
さまざまなところでいつもとは違う難しさ
あらゆると言っても過言ではないほどいろいろな面で制限が課された状況下ではあるが、とにかくもサッカーのある週末が一歩また一歩と戻ってきつつある。
観客のいないリモートマッチ、降格枠ゼロ、これからはじまる夏場の過密日程、交代枠5人制、VAR非実施などなど、通常とは異なる点ばかりで、いざピッチに立った選手たちは戸惑うかもしれない。「選手たちがサッカーそのものに集中できるように声をかけたい。いかに早く環境に順応できるかが大事」と片野坂知宏監督も言った。海外のリーグやJ2・J3でも、再開初戦は早い時間帯での失点やPK献上、ゴール前での負傷などが相次いだ。交代5人制の下、試合途中でガラリとメンバーや戦い方を変えて戦況を転覆させるケースもあった。ピッチでもベンチでも、コロナ禍による影響がさまざまに見て取れる。
中断期間中には多くのチームがこのイレギュラーなシーズンに対応すべく、さまざまな準備をしたはずだ。特に戦術浸透や戦い方のバリエーション増は、今季を乗り切るためにやっておかなくてはならない。これに加えて交代枠5人制で、対戦相手の出方が非常に読みづらい。公式戦2試合を終えただけのタイミングで長期にわたって中断したことで、第2節は再び開幕戦のような情報戦の様相を呈している。中断期間はトレーニングを非公開で行ったチームも多いため、第1節直前よりも情報量は少ないかもしれない。
強度をキープしつつ連動性を増した鳥栖
再開初戦の対戦相手・鳥栖は、緊急事態宣言解除を受けてJ1最速で活動を再開させた。開幕戦後に一度途切れて低下したメンタルやコンディションを再び上げることにも時間を使えたようだ。大分もその後まもなく、活動再開に追随している。段階的にトレーニングの強度を高め、現在はほぼ戦える状態に戻ってきたと、選手たちは充実した表情を見せた。
昨季の鳥栖戦はいずれも印象深い2戦だった。ホームでの第10節は、カレーラス監督が前触れなく来場せず金明輝監督代行が急遽指揮。大分はJ1初先発の高畑奎汰と岩田智輝によるクロスから2得点し高木駿のビッグセーブで無失点に抑えて勝利した。アウェイでの第21節は金明輝監督の得意とする連動したプレッシングに苦しめられる。第10節同様、この試合もフェルナンド・トーレスが先発したが、守備をしないトーレスをカバーする変則的な前プレで大分のビルドアップを阻んだ。激しいタックルにも遭いヒートアップする中で采配合戦が繰り広げられた末に、90分にビルドアップのミスから追いつかれて2-2で終了している。
金明輝監督がスタートから指揮する今季の鳥栖は、指揮官の望む戦力も揃い、前線は個の強度を保ちながら連動性を増して厄介になった印象だ。中盤には原川力、松岡大起、本田風智というクレバーで運動量豊富な3枚が並ぶ。開幕の川崎F戦では相手に主導権を握られ19本のシュートを浴びながら無失点にしのぎ、アウェイで勝点1を得た。
今節は前線の顔ぶれが気になるところだ。レンゾ・ロペスとチアゴ・アウベスがともに先発する可能性も否めない。小屋松知哉の仕掛けも厄介だが、レンゾ・ロペスと小屋松とはJ2・京都戦でも対戦しており、個々の特徴は把握できている。
大分は中断期間に新たな戦術も仕込んだというが、それが実戦で有効に機能するほど練度を上げているか。展開によってはそれも見ることが出来るかもしれない。また、5枚の交代枠をどう使い、どう流れを引き寄せていくか。コーチ陣にも選手たちにも、相手を見ながら対応していく力が従来よりも問われる。
ただ、いろいろと難しい状況はあるものの、4ヶ月ぶりの公式戦で、今季のホーム開幕戦だ。今季初得点も心待ちにされる。サッカーが出来る喜びをプレーに還元して躍動感を持って戦い、走力や球際で相手に負けずに勝利をものにしたい。
練習後の監督・選手コメント
■片野坂知宏監督
いよいよスタートするにあたり、再開できる喜び、楽しみにしている気持ちがある。今季は特別なシーズンになり、いろいろなことが起こりうるので心配な部分もあるが、再開が決まったことで選手も集中していい準備が出来ていると思う。90分戦える準備は出来ているし、もう一度コンディションと戦術面で頭を動かしてくれた。連戦が続く中で、全選手がいい準備をして戦わなくていい成果にはつながらない。
公式戦で早く得点を挙げたい。今季のホーム開幕になるので、リモートマッチではあるが、早くホームで得点したい。得点するための戦術も鳥栖戦と今後に向けてトレーニングで落とし込んでやっている。それが鳥栖戦から発揮できればいいなと思う。得点が選手の自信にもつながるし、スタートダッシュにもつながる。
鳥栖さんのイメージはアグレッシブで激しく前から奪いにプレスをかけてくるし、切り替えも非常に速い。若い選手を含めていい戦力がたくさんいるので、勢いに乗せると厄介になる。昨季もわれわれに対していろいろな準備をしていたし、ゲーム中にも変えてくる可能性がある。相手がどういうふうに来たとしても、われわれの狙いどおりでしっかり戦いたい。その中でメンバー変更の駆け引きもお互いあるかもしれないが、90分のゲームの状況を見極めながらやるようにしたい。メンバーを変えられる選手は鳥栖さんも多いので、どういうふうになるかしっかり見なくてはならない。
■GK 1 高木駿
中断でだいぶ期間が空いたので、もう一度開幕するような気持ちでいる。しっかり自分の個性を出してビルドアップに加わったり守備でピンチを止められるよう、映像を通じてでも元気にやっていることを伝えたい。声を出す部分でもアピールし、盛り上げているところを見せたい。
鳥栖の攻撃は今季のほうが厄介。昨季のように大型選手にボールが集まるワンマンチームのほうが、守備側としては個の部分を抑えてやられなければいいのだが、逆に粒ぞろいで組織的にハードワークしてくるチームだと、コンビネーションを出されて守備の焦点を絞りづらく、厄介になりがち。僕たちも後者のようなチームなので、自分たちが全員でハードワークしてコンビネーションを出し、相手の隙を突く点で負けないようにしたい。
リモートマッチは少しさみしい気もするが、サポーターのみなさんがお金を出してくださってトリボードを設置してくださったおかげで、観客に見てもらっているような気持ちでプレーできる。ボードが並んだスタンドを見るのがとても楽しみ。チャンスがあればトリボードに挨拶しにいきます。
■FW 9 知念慶
個人的にはいい状態。チームもいい雰囲気で練習できていて、再開に向け集中して取り組めている。チームメイトともこういうボールが欲しいなどの要求を話し合い連係を高めたので、試合の中でもそういう場面が出せるのではないかと思っている。多摩川クラシコでは先発しミドルシュートを決めたこともあるし、湘南との神奈川ダービーでも得点したが、九州ダービーは初めて。再開初戦に勝利して勢いに乗りたい。
鳥栖の開幕戦はハイライトしか見ていないが、守備が堅いイメージ。これまでの川崎Fでの対戦でも、攻めていたにも関わらず得点できなくて引き分けが多かったような印象が残っている。エドゥアルドとは川崎Fで2年ほど一緒にプレーしたが、Jでもトップクラスに対人が強く、紅白戦などではバチバチやられていた。ただ、背後のケアなどについては逆をとるなどすれば僕にもチャンスがあるかなと思っている。クロスにも勢いよく飛び込みたい。
サッカーが出来ない期間が長かったぶん、サッカーが出来る喜びが増し、価値観が変わった感じで、試合に対する熱量も日に日に強くなっている。練習だと頭で理解するばかりで実戦にならないと得られない部分があるので、試合がはじまってから吸収できるものが多いのではないかと思う。
■DF 5 鈴木義宜
中断期間があったので自分の体を戻すことに視点を置きながらやってきた。開幕前の頃と変わらない状態になっている。ゴール前の反応なども悪い感触ではないが、また試合をこなしながら高めていく。チームは雰囲気もよく、誰が出てもいいように全員が意識高く取り組めている。
鳥栖は一体感を持ってよく走り、ハードワークするチーム。走るところ、球際のところなどベースの部分で上回られると厳しくなるので負けないようにしたい。本当であれば盛り上がるばずの九州ダービーがリモートマッチで観客がいないのは残念だが、ダービーはダービーなので頑張りたい。
J2やJ3の再開初戦を見ても、独特の雰囲気だった。難しくなると思うがいつもどおり戦っていく。試合の入り、後半立ち上がり、飲水タイム後などは大事に入ってやられないようチームメイトと声を掛け合うなどしなくてはならないが、逆にそういう相手の隙を狙っていきたいとも思う。