【新戦力紹介】理論派へと変貌したサイドアタッカー/MF 50 田中達也
「僕、サッカー好きなんですよ」
チームに合流した7月11日の練習後、初めての囲み取材での最初の自己紹介があまりに率直な一言だったので、思わず報道陣から笑いがこぼれた。
「僕、本当にシンプルにサッカーが好きで。だから、今回オファーをいただいたときも哲平さん(西山強化部長)とサッカーの話で盛り上がって」
移籍交渉の席で、本質的なレベルまでサッカー観をぶつけ合ったという。この日の練習後にも、チームNo.1の理論派である安田好隆コーチと二人、ずいぶん長い時間、話し込んでいた。
「自分はこういうものがいいプレーだと思うとか。さらにカタさんのサッカーの未知の部分の話もあって…あ、これどこまで話していいんですかね。カタさんはいつもどのあたりまで取材で話してます?」
自称「人見知り」ながら取材への入りがこれだけスムーズだったのは、直前に安田コーチとディープなところまで踏み込んでテンションが上がった流れもあったかもしれない。
今季、熊本から移籍したG大阪を半年で出て大分へ。本人にとっても苦渋の決断だったようだ。
「僕に期待してくださった方々、僕のユニフォームを買ってくださったサポーターの方々にも本当に申し訳なくて。ユニフォームだって安い買物じゃないですし。いまは何を言ってもガンバサポからは叩かれる。それは当然だし、仕方ないと思っています」
それでも大分への移籍を決断したのは、西山強化部長からの熱心なアプローチに加え、大分のサッカーへの興味に突き動かされたから。「このサッカーをしてみたい」という気持ちを抑えきれなくなり、「サッカーが大好き」な27歳は、異例の電撃移籍に踏み切った。
福岡のアカデミーから東福岡高、九州産業大へと進み、2011年に熊本でプロデビュー。スピードに長けたアタッカーで、勢いよくサイドを突破していく姿は、見ていて爽快だが対戦すると脅威だった。だが、その勢いあふれるプレーのイメージを裏切って、話してみると実は細やかな戦術マニア。きっかけは熊本での北嶋秀朗コーチとの出会いだったという。
「それまでは動画サイトでもドリブルの映像ばかり見ていたんだけど、キタジさんと出会ってからは深く戦術の話をするようになって。電話で1時間くらいとか全然ざらでした」
安田コーチとも親交のある理論派仲間の北嶋コーチからサッカーの最新理論を学ぶうちに、渋谷洋樹監督が熊本を率いるようになり、チームのスタイルもポジショナルサッカーへと大きく舵を切った。試合の狙いごとに細かく立ち位置を取り続けていくスタイルは、大分のサッカーのベースとの共通点が多い。その「理論」という共通言語をもって今季あらためて見たときに、大分のサッカーが非常に魅力的に感じられた。
試合中に相手の変化を見ながら自分の立ち位置やプレーを変えていくことにカタルシスを覚えるタイプのようだ。突破力を持ったサイドアタッカーが細やかな駆け引きを身につけていったプレースタイルの変化は、松本怜のたどった軌跡によく似ている。おかげで、戦術理解は早そうだ。左右どちらのサイドでもプレーでき即戦力としても期待されるが、まずはチームに馴染み、仲間たちと互いの特徴を把握し合うところからスタートする。
福岡で生まれて間もなく日出町に引っ越し、2歳まで過ごした。「実は大分に縁があるんです」。初日のジョグは星雄次と並んで。昨季からDAZNで三平和司のインタビューを見ていて「どんな人なんだろうと思ってたけど、見ていたとおりの人でした」と、シーズン開幕前の庄司朋乃也と同じことを言った。一日も早くフィットし、ポジション争いに食い込んでもらいたい。G大阪への恩返しは、大分で花開くことだ。