MF 10 野村直輝「『あ、シュート打てる』と3秒前くらいに思った」
——素晴らしい決勝弾だった。
決まった後はあまり覚えていない。打った瞬間に決まったと思ってサポーターのほうへと走り出していた。
——どういう思いだったのか。
これは話せば長くなる。やはり古巣ということもあるし、相手は勝てば昇格ということが決まっていたシチュエーション。大卒として僕が行き先がなかったときに、僕を獲ってくれたクラブだから、「おめでとう」という気持ちと「そうはさせないぞ」という気持ちとが入り混じる中、それに加えて、僕は大分に来てからなかなか自分らしい仕事、自分が思い描いていたチームへの貢献が出来ていなくて悔しい、苦しい思いがあった中で、今日のゴールは非常に複雑。お世話になったクラブへの恩返し弾と言ったらかっこいいかもしれないが、本当は恩返ししたくないというのも正直ある。バーベキューしたりとサポーターとの密度の濃いイベントもたくさんあって、顔見知りのサポーターもたくさんいる。お世話になったスポンサーさまにも試合後に挨拶させていただいたのだが、そういった方々の顔が思い浮かんできて、いろんな気持ちが混ざって。
勝てばプレーオフ進出が決まるということは考えていなくて、この試合に勝つことだけ考えていて、一緒にピッチに入った(金崎)夢生くんも「俺たちが決めるぞ」と声をかけてくれていた。交代選手がゲームを決めるということが今日の僕たちの仕事だったので、それをちゃんと数字で結果として出せてよかった。ちょっとほっとした。
——ここのところずっと自ら仕掛けるというよりもボールを捌くプレーが多くなっていたが。
チームの狙いとしてWBの選手が背後を取るという戦術なので、僕らは出し手になるパターンが多く、おそらく(町田)也真人くんも似たようなことを感じているかもしれない。でもそれが僕らの役割でタスク。その中でクロスに入っていったり。ドリブルからのシュートというよりは、クロスに入って点を取ることが多くなっていると思う。
今日もいつもと変わらなかったのだが、こぼれ球で間がフリーになって、周囲の状況を見たときに「あ、シュート打てる」と3秒前くらいに思った。それで自分の打ちやすいところにボールを転がして載せるだけだった。この一発で背負っていたものが全部吹き飛んだ気がする。
——あのシュートの前は即時奪還の繰り返しでゴールに迫っていた。どういうことを考えていたのか。
つねにボールに関わるということ。プレーを一個一個で切らさずにすぐにトランジションする。それが自分の役割でもあると思うので。それを続けた結果、ああやって転がってきてくれた。ペレ(ペレイラ)がちゃんと押さえてくれたのがこぼれてきたし、僕だけじゃなくいろんな仲間の助けがあってのゴールだったと思う。
——ピッチに入る前の時間帯は相手がシャドーに強く圧をかけていた。どう見てどうプレーしようと考えていたか。
あまり気にしていなかった。ピッチに入ると、意外に来ているようで来ていないのかなという感覚があった。それは多分、調子がいいときの感覚なのだが、思ったより来ていないなというイメージ。というか多分、(自分のプレーの)入りがよかった。今週ずっとよかった中で、今日は体のケアも上手くいった感触だった。やり慣れたピッチだったので(笑)気持ちとともにいい状態だった。
——その状態は維持できそうか。
これからもあまり考えすぎずに、自分のイメージのままでプレーすることが、いちばん自分の特長が出ると思ったので。
——チームとしても個人としても苦しい時期を過ごしてきて、プレーオフ進出を決めた心境は。
あまり意識していなかった。競争もあるし、先のことを考える余裕もなく、「今日結果を出せなければ次はない」と思いながらずっとやっていたので。その繰り返しだった。この先も全部そのスタンスで行くと思う。
——いまチームの雰囲気もすごくよさそうだが。
いまは本当に、みんなが練習のときからいい準備をしようとしている。変に邪念がないというか、調子のいいメンバーに「調子いいよね」と言い合えるような感じ。
——三ツ沢で自分のゴールでプレーオフを決めたということについての意味は。
準備段階ではいつもどおりだったのだが、このスタジアムに入るとやはり高まるものがある。「三ツ沢がノせてくれた」という感じ。むかし住んでいた家に帰ってきたような。
——横浜FCと一緒に昇格するという可能性も残っている。
僕はプレーオフを2回経験しているのだが、めちゃくちゃ厳しい戦いなので、そう簡単に行くものではないとわかっている。徳島のときもそうだし、三ツ沢でも最後にヴェルディにアディショナルタイムにやられた経験がある。そういった部分も含めていい影響を与えられるよう、笛が鳴るまで勝負はわからないということをチームとして理解してもらいながら、いい空気感を出していきたい。