【記者会見】片野坂知宏監督「夢のような、ちょっと信じられない結果」
正直、こうして試合が終わったあとでも、勝てたという実感がない。夢のような、ちょっと信じられない結果になったと感じている。
今日の天皇杯準決勝の川崎F戦に向けて、われわれは4バックシステムでチャレンジした。川崎Fさんは今季、素晴らしい成果を挙げられて、天皇杯でも優勝を目指しており、優勝できる力のあるチームだと思う。そういう絶対王者の川崎Fに対して、われわれがどういうふうに勝てるかをスタッフとともに準備し、選手はそれを信じて粘り強くやってくれた。高木 駿のビッグセーブがなければ勝ち上がることができなかったゲームだと思う。
内容に関しても、やはり川崎Fさんの強さはすごい迫力があり、非常に苦労したが、川崎Fさんを0点に抑える状況を長く長く続けながら、ワンチャンス、ツーチャンスを狙って展開するような感じだった。上手く試合を運ぶことが出来て延長戦、PK戦にまで行って疲労している中、戦う姿勢をもって結果を出してくれた。スタッフ、選手、そして力を与えてくださったファン、サポーターに心から感謝いたします。
川崎Fさん相手に、われわれの今日の戦い方として、攻撃にしても守備にしてもウィークとストロングがあると選手に理解させ、選手たちもそれをしっかりと感じ取った中でやってくれた。途中も3-4-2-1に戻そうか4枚のメンバーを変えようかと、いろんな試行錯誤しながらの120分だった。非常に頭も使うし気も使う疲れたゲームになったが、こうして勝ち上がって決勝に行けたことが、その疲れを吹っ飛ばしてくれた。本当に、ファン、サポーター、大分トリニータに関わるすべての方々に、決勝に進出した喜びをもたらせてよかった。
決勝の相手はまだわからないが、決勝戦もわれわれらしい戦いを思い切ってやれるよう、また1週間準備して、今季を最高の結果で終えられるように、そして悔しい思いをしたリーグ戦からタイトルを取るというところまで行けるよう、また準備して臨みたい。
——この試合での狙いと成果について。
スコアだけ見れば1-1。なんとか最後にパワープレーで1点取ってPK戦に持ち込んで勝ち上がり決勝進出できたのだが、内容的にはやはり川崎Fさんの上手さがあったし、われわれの4-3-1-2の守備を剥がして展開して、個の打開のところでチャレンジされていて、危ない場面もたくさんあった。そこを高木駿中心に粘り強く守ってくれたこと。そして0-0の状況を続ければ、川崎Fさんも焦ってきたり、前がかりになればそういったスペースを使ってわれわれがワンチャンスでも仕留めていい結果に出来ると。選手はそれを信じてよくやってくれたと思う。
——リーグ戦で絶対に勝たなくてはならなかった第36節の鹿島戦と、一戦必勝トーナメントの今日の試合。どちらも失点しないように粘って少ない好機を狙う戦い方だったが、相手のスタイルに合わせて全く異なるプランを披露した。それについて。
川崎Fさんは非常にボールの動かしが上手く攻撃力のあるチームなので、スペースと時間を与えると個の打開やコンビネーション、カウンターを含めていろんなところからの得点。点を取れる選手もたくさんいるし、とにかく出来るだけゴールから遠ざけたいと。そして守備のところでもある程度制限できるような戦い方をしなくては、われわれは引き込まれてサンドバッグ状態になるなと。それで、出来るだけ真ん中を使われずサイドに対して強く行けるような守備を狙っていた。
川崎Fさんもうちがこういう形で来ることは想定外なことだったのかもしれないが、ある程度、狙いの中でやってくれたと思う。
鹿島戦では、鹿島さんは4-2-3-1の形でサイドが強く、SBとSHが激しく来る。トランジションも非常に早くて強度の高いサッカーをされる。その中で、来るところをしっかり判断しながら剥がしていけるように、そして強度の高い相手に対しても、とにかく粘り強く戦ってワンチャンスを狙うというところでは、われわれが勝ち進むため、勝点を取るためのひとつの策として、川崎F戦、鹿島戦の戦い方だった。
鹿島戦は残念ながら勝ち切ることが出来なくて降格が決まってしまったのだが、強い鹿島さんに対して4枚でやって攻撃的に挑むという方法もあったかもしれない中で、あの状況ではベストな戦いだったのではないかと自分は思っている。
——井上選手投入などいろいろ策を練って想定どおりだったと思うが、最後に羽田選手を投入する直前に失点して、少し話してからパワープレーの陣形にした。そのあたりの意図を。
準備しているときはまだ0-0の状況だった。中盤の4人が非常に疲労しているように見えたので、中盤のところで代えてもう一回そこからバランスを取ったり、しっかり守備が出来て、攻撃の起点も羽田を含めて出来ればなと。そして前線の長沢駿にしても、渡邉新太が疲労していたので、駿の高さと井上のスピードというバランスにして、なんとかワンチャンスで点を取りたいというところで交代を準備していた。
ただ、交代直前に失点してしまった。延長後半の残り時間も少ない中で、これはもう長沢駿を入れるのであればパワープレーに切り替えたほうがいいというところで、羽田をDFラインに落としてエンリケを前線に上げるというふうに、すぐに切り替えた。ピッチにいた下田北斗とかも「もうパワープレーにしますよね」と言ってきて、そのバランスをやるようにして、なんとか1点返せてよかった。
——シーズン中にもたまにエンリケ選手を上げることがあったが、用意していたのか。
いろんなプランを用意していた中で、最後、点を取るしかないので、放り込みで高さのある二人がいたし、なんとかセカンドボールを拾って押し込むような状況が出来ればと。トーナメントなので、1-0で負けようが2-0で負けようが、点を取るしかないというところで、やるようにした。
——今季はPKで泣いた試合もあったが、天皇杯でのPK戦の準備については。
トレーニングでPKを取り入れた。川崎Fさんは天皇杯で3試合、PK戦をされて勝ち上がってこられていたので、キッカーがどちらで蹴るかといった特徴を、スタッフがデータで持っていてくれて、それをPK戦になったときに高木駿に一応、頭に入れさせるような形にした。
——PK戦の前に監督からはどのような指示を。
ここまで川崎Fさんと対等に、90分、延長を含めて戦えている。PK戦は運もあるし、とにかく外してもいい。ここまでやってきたみんなが思い切って蹴ってくれれば必ず高木駿が止める。だから自信のある選手が思い切って蹴ってくれと話してあった。キッカーの順番は、わたしがスタッフといろいろ話しながら決めた。
——高木選手はシーズン途中でベンチに回った時期もあった。守護神の座を取り返し、こういう舞台で結果を出した。あらためてその評価を。
今日は高木駿のビッグセーブがなければ敗退していたと思うし、そのビッグセーブの勢いをPK戦にまで持ってきてくれて、本当に高木駿のおかげ。そしてエンリケがパワープレーでしっかり決めてくれたおかげだと思う。
今季はキャプテンとして、責任と覚悟をもってチャレンジしてくれた。前半戦はなかなか結果が出ず、ミスもあったりして、そういうところで少しパフォーマンスが悪くなった。普段のトレーニングから僕はGKも見ていて、GKコーチと話し合いながら、高木のパフォーマンスが落ちているのであればとポープ・ウィリアムに代えて、ポープにもトライさせながら、二人が出ることが多い中でお互いを競争させ、ゲームやコンディション、パフォーマンスによって、フィールドプレーヤーと同様に、GKを選ぶようにしていた。
そういう中で高木駿は切らさずにチームのために、自分がまたチームに貢献するために、トレーニングから集中してトライしてくれていた。そうして高木駿がまたレギュラーを取り、ゲームでも非常に集中して存在感を出してくれる。フィードや、クロス対応でも身長は決して高くないのだが、わたし自身がGKに対して求めるところをチャレンジして貢献してくれていた。
リーグ戦は残念ながらいい結果につながらなかったが、今日の天皇杯のパフォーマンスを見れば、彼がどれだけ日頃からしっかりトレーニングから集中し、チームのために出来ることをやってくれていたかがわかる。その成果が今日の活躍につながったと思うし、高木駿が普段からそういうパフォーマンスをしているからこそ、今日のああいうプレーは高木駿にとってはあたりまえなのかなと思う。本当に素晴らしいプレーをしてくれたし、キャプテンとしてチームを引っ張ってくれたと思う。
——リーグ最終節の柏戦のあとの光景もそうだが、降格が決まったあとでも非常に明るい雰囲気があり、片野坂監督のためにもという思いもあるのだと思う。PK戦の前にも笑顔が見えたが、そういう雰囲気はなかなか作ろうと思って作れるものではないのでは。
僕自身は、リーグの鹿島戦で降格が決まったあとの横浜FC戦と柏戦の2試合を、すごく大事だと思っていた。そして選手も、悔しい思いはあるが、ファンやサポーターに感謝して最後まで戦う姿勢を見せなくてはならないと。そういう中でも応援に来てくださる方々がたくさんいらっしゃるので、そういった方々に最後まであきらめずに最大値を出してやることが、やっぱりトリニータの使命だということを選手に話した。僕自身も残りの2試合と天皇杯で、勝てるゲームをするために、思いきって自分の準備をしていきたいと。
選手がそこで奮起してくれたと思う。そういう思いになってくれたし、ピッチの中でも選手ひとりひとりが責任をもって戦ってくれて、横浜FC戦、柏戦と連勝し、その勢いが今日の川崎F戦でも出たと思う。天皇杯はノックアウト制の中、今日も絶対王者の川崎Fさんが相手なので本当に簡単なゲームではないし、今季の成績から言えば、間違いなく川崎Fさんが決勝に勝ち上がるチームだとみんなが思うところを、なんとかわれわれらしい戦い方が出来た。今日は事実上の決勝戦だということを話し、思い切って自分のやりたいこととかやれることだとか、最後まで出し切るとか、そういうものをとにかくファン、サポーターに見せようよという話をして、そういったところで選手はすごく奮起してくれたし、本当に気持ちのこもったプレーをしてくれたと思う。
そういうメンタル的なリバウンドのところで持ち直して、強い気持ちをもってまたこうやって戦ってくれているからこそ、こういう結果につながったのではないかと思う。