TORITENトリテン

闘う言葉

片野坂知宏監督「泣きはしなかったが泣きたいくらいうれしかった」

 

【記者会見】

ホーム最終戦ということで、なんとしても勝ちたい、とにかく勝利を、今季たくさん大銀ドームにお越しいただいた方々に、最後に喜んでもらえるようにと試合に臨んだ。どんなに泥臭くても勝ち点3を奪いに行くゲームをしなくてはならないと思っていた。

選手も、熊本さんとの対戦成績はあまり良くない中で、アウェイでの前回対戦はなんとか勝つことが出来て、今回の立場も、われわれは9位か10位、熊本さんは残留が懸かっている。どういう形でゲームに入ってくるか、システムを含めてわからない部分があったのだが、思ったよりも構えて来られた。前節の徳島戦を分析されていたら、前から行っても取れないので若干は構えてくるのではないかというのは想定内ではあったのだが、あれほどしっかりとブロックを作って閉めてコンパクトに守られるとは思っていなくて、非常に苦労した。

入りから我慢の時間帯も多かったし、崩すところもチャンスも奪えず、なかなか厳しい試合だと思っていた。後半、この3-4-2-1同士のミラーゲームで、どちらが先に動いてくるのかと、我慢しながらゲームを見ていた。もしかしたら熊本さんのほうが勝ちにくるかなと思っていたのだが、そこまでの攻撃のスイッチは変えず、本当に難しい展開だった。

先制されてしまったことで、とにかく攻めるしかないと。今日はリスクを負ってでも勝ちにいかなくてはならないということで、伊佐とシキーニョを入れて4-4-2のシステムでミスマッチを起こし、そういうところから上回れるような形を狙った。選手が最後まで戦って、意地を見せてくれて、逆転する試合をホームで見せてくれた。選手たちに感謝している。

ここまで積み上げてきたことで、3-4-2-1のシステムだけでなく、4バックで攻撃的に行く中でも良い形で出来た試合もあったし、選手が僕の意図を良く理解した中でやってくれた。

本当であれば、3-4-2-1同士で相手を上回って、もう少し点差をつけて勝てるのが良かったのだが、本当にサッカーは難しいということを今日のゲームでも教えられたし、まだまだ来季に向けて、こういう相手にも勝ち切ることが課題。無失点で複数得点して終えるようなゲームが出来るといいなと思った。

ただ、自分の中で「今日は絶対に勝たないといけない」という思いでいたので、本当に勝てて良かったとほっとしている。泣きはしなかったが泣きたいくらいうれしかった。順位も何とか一桁の9位でフィニッシュすることになったが、それよりも勝ち点を64取ったことが大きい。選手が毎試合、目の前の試合に対して準備し、最大値を出してくれたからだと思う。

それもすごく大事なことだし、試合に出ていない選手の振る舞い、行い、取り組み方も、ウチの選手たちは本当に真面目に切り替えてやってくれた。昨季からの継続の部分で一体感を持つために大事なことを、今季も最後まで切らさずにやってくれたと思う。

今季9位で終わったことで、来季への期待も、プレーオフを目指してほしい気持ちもあるだろうし、1日でも早く昇格を成し遂げてほしいという思いも感じる。わたしも来季、継続してやらせていただく中で、そういう思いをしっかりと受け止めながら、今季のさらにワンランク上を目指して積み上げていかなくてはならないと、いま思っている。

本当に、最終戦、たくさんの方にお越しいただき、勝利をプレゼントできて良かった。来季はホームでたくさん勝って、たくさん喜んでもらえるように、しっかり自分の仕事を全うしたい。

——あらためて、どういう1年だったか。

大変な1年だった。僕もJ2で指揮をとるのは初めてだが、サッカーに対してこれだけ考えなくてはならない、これだけやらなくてはならないというシーズンは、まあ監督なので当たり前なのだが、42試合ノンストップでやらなくてはならない大変さは、いままで感じたことがないくらいだった。

他のJ2の監督も、僕以上に大変な思いをされている方もきっといるだろうが、やはり中断期間がなく、つねに試合があるというのは、良い面もあれば悪い面もあると思う。J2の42試合の長いシーズンは、終わってみれば早いかもしれないが、われわれコーチ陣、スタッフ陣もタフになる。それ以上に選手は最後までしっかりとやってくれた。本当に感謝しなくてはならない。

——この1年で得られたものと、課題とを挙げるとすれば。

得られたものは、戦術理解度。戦術的狙いを持って試合をすることで、選手が臨機応変に僕の意図をしっかりとピッチで表現してくれた。それは本当に積み上がってきていた部分だと思うし、昨季からの部分もあるのだが、シーズン終盤にかけても、結果は出せなかったが良い形で出来たと思う。そこは収穫で、来季以降も継続していかなくてはならない。

課題としては、まず攻撃においての判断やパスのスピード。あとはゴール前の決定力。良いサッカーをしたとしても、シュートを枠に飛ばせるという質の部分がなくては。どのチームも決定力は課題にしていると思うが、そういう部分ももっと積み上げていかなくてはならない。

守備の方でも、個人の対応のところで粘り強く我慢強く。J2のレベルになると外国籍選手を含め、日本人選手でも、個の部分で上回れる選手がたくさんいる。そういう相手に対して、われわれも個の部分でやられないように、フィジカル面の強さ、個の部分でタフに戦えるかどうか。球際やヘディングの競り合いひとつにしても、そこで勝つかどうか、マイボールに出来るかどうかによって、失点につながるか得点につながるかが左右されてくると思う。

もっとタフに90分戦えるチームを作っていかないと、自分たちの目標とするJ1昇格、プレーオフ圏内を狙うのであれば、本当にそういうところが必要だと、今季を戦うにつれて感じた。

——J3から昇格した今季、どういう位置づけで戦ってきたか。

今季はJ2の1年目。僕も監督として経験するのは初めてだったし、まずは残留することが第一条件だった。そのための勝ち点45を狙うということでやってきた。ただ、数字的なものを目標としては出すのだが、目の前の試合で1でも3でも勝ち点を取っていくように準備し、最後まであきらめずに戦うという姿勢を、42試合することが大事だと思っていた。選手がよく準備して戦ってくれた。

そういう中で、戦術のところでも、今季は僕が広島でもやっていた3-4-2-1のシステムややり方にトライした中で、選手も意図を理解し、狙いを持ってピッチで表現してくれた。

自分としては残留できればいいと思っていたのだが、一桁順位を狙いたいと上方修正し、9位でフィニッシュ。本当であれば、前節の徳島戦で、悔し泣きしたのだが、プレーオフに行きたかった。プレーオフに行けるサッカーをしていたと、自分の中で思った。最終戦までプレーオフ圏内を目指せれば最高だったのだが、それが成し遂げられなかったのは、来季に向けての課題だと思っている。

さきほども言ったように、勝ち点64を取れたということは、素晴らしい成果だった。いままでのJ2リーグであれば64ポイント取れていれば、6位以内というのもあったのではないかと思うが、今季J2は接戦で、飛び抜けて強いチームというのもなかった。われわれは湘南さん、福岡さん、名古屋さんと、強いチームに対して勝ち点を取ったりしていたが、長崎さんには2連敗。そういうふうに、どこが強いというのがあるリーグ戦ではなかったので、本当に難しかった。ひとつひとつのプレーが勝ち点を左右するリーグだった。そういう経験が出来たことは、来季につながると思う。

——来季続投のオファーはいつ、どんな形で。

話があったのは、10月の、確か福岡戦の前だったと思う。話をいただいて、すごく感謝した。本当にありがたい話で、また来季もトリニータのために出来るということは、自分の中でも前向きにとらえた。即答ではなかったのだが、クラブとも交渉も兼ねて何度か話をした。条件も含めて、トリニータが今後どういう形で僕に指揮をしてほしいかということも聞きながら、僕もトリニータを自分の色に染めることが出来つつある中で、まだ足りないところをもっと、チームのために自分が力になれるのであれば、そうしたいという思いになった。それで契約するよう話をした。返事は先週、徳島戦の後に。悔しい思いはこのチームで晴らすしかないと考え、決断した。

——交渉の席でクラブに求めたことと、来季のヴィジョンや強化ポイントは。

これから選手との交渉などに取り掛かる。来季も一緒に戦ってほしいし、昨季も何年かの選手がチームを離れてしまったので、そういうことがないように、いま継続をお願いしている選手に関しては、残ってもらえるのを前提にした中で、戦力を補強するポイントを判断しなくてはならない。

契約満了になった選手、退団してしまう選手のことも踏まえ、ポジションのバランス良くやっていきたい。今季の課題のところでも、鈴木義・竹内・福森のディフェンス3枚が30試合くらい先発で出てくれたが、その3人が出なかったときに、もう1枚、競い合えるような選手も欲しいと思った。

前線も大津が満了ということで、ストライカーの点取り屋、決定力のある選手が必要になる。まずは前と後ろを補強しなくてはならないと思う。あとはボランチにしてもサイドにしてもシャドーにしても、ポイントで、選手が残留してくれるか他のチームに行ってしまうかを話すのはこれからなので、わからないところもあるが、もし戦力を抜かれてしまうようなことがあったときにも、補強できるようなリストアップはしている。

具体的にどこというのはないのだが、自分の中ではやはり前と後ろ。そこはしっかりと出来たらいいなと思っている。

【囲み取材】

——試合開始直前に熊本のJ2残留が決まったので、もう少し前から来るのではないかと思っていたのだが。

そうなんですよ。でもしっかり引いてきた。あそこまで引かれると崩すのはちょっと難しい。やはり徳島戦を分析されて、前から行っても奪えないと思っているだろうなとは、覚悟していたのだが。どういう形で来るかなと思っていたが、やはり難しい。

——試合の序盤は縦パスを予測されてカットされる場面が目立った。

ハーフタイムにも修正の指示を出したのだが、あれだけコンパクトに中を閉めてブロックされていて、ウィークは背後だと思った。狙いは、さんぺー(三平和司)がブラインドサイドや背後に抜けたりということは言っていた。

——結構良いシーンがあった。

ああいうところでもっとシンプルに、さんぺーの機動力や抜け出しのタイミングなどを使えればと。それに対して後藤やコテ(小手川宏基)やWBが絡んで行ったり。そういうことを、後藤やコテを呼んでゲーム中にも言ったりしていた。植田くんや園田くんの背後を狙おうと。上原くんも自分でラインを高くコントロールしたりしながら、さんぺーに食いついていったりしていた。ハーフウェーラインあたりでは(鈴木)惇にボールを持たせてくれていたので、タイミング良く行けばシンプルに狙えるのではないかと。

そういうことをやっているうちに、どんどん相手のラインを下げることが出来れば、スペースが空いてくるのでそこを狙うようにすれば、選択肢として相手の後ろもあるが手前もあるということで、相手DFも球際に行けなくなってくる。そういうところでターンして前を向いて仕掛けることが出来れば起点も作れるのではないかと考えた。

同時に熊本さんも、嶋田くんとか中山くんとかが引いて、こちらのボランチ脇で起点を作っていたので、ディフェンスの縦ズレ・横ズレについては指示を出していた。相手シャドーが下りたときに(松本)怜と(岸田)翔平が行って、後ろは(ファン)ソンスとフク(福森直也)がスライドすれば大丈夫だよと。やはりテンポ良く回された。真ん中の上里くんも、ひさしぶりのゲームだったが起点を作れるし、良い出来だった。守備がしっかりオーガナイズされていて、絶対に中を閉めろと言われていたのだろうなと。ああなったときに、個人の駆け引きやタイミングで上回れればいいのだが…。

伊佐を頂点に入れてさんぺーをシャドーに落としたほうが良いのかなとも考えた。だが、さんぺーもタイミング良く出るし、背中も取れそうだなというのもあって。0-0の時間帯にこちらが動くよりも、相手がグスタボを入れて2トップにしてくる可能性もあるので、様子を見ながら考えていたのだが、カウンターから失点してしまって、ああ、これは厳しいなと。

それでミラーではなくミスマッチを作って、攻撃的に行こうと。ここで負けても順位は変わらないし、割り切って勝ちに行こうと考えた。伊佐とシキ(シキーニョ)を入れて4-4-2で、とにかく行け!と。

——そして清本選手を入れて、まさかの。

ねえ。キヨが本当に、すごい。素晴らしいと思う。